<走馬灯の逆廻しエッセイ> 第1話 「RNA研究、発見エピソードの数々|はじめに キャップ構造の発見」

古市 泰宏(さきがけ「RNAと生体機能」アドバイザー)

RNA研究にまつわる発見エピソードを、いくつかお話したいと思う。

それらは、故野本明男さんが総括をされていた“さきがけRNAと生体機能”の折々の懇親会などで、アドバイザーだった老生が、塾生の皆さんに問われ語りに思い出を話したことなどである。そのどれもが、1970〜80年代に、ニューヨーク・ボストンエリアで頻発したメッセンジャーRNA(mRNA)の基本構造に関する新発見の思い出である。その当時ロシュ分子生物学研究所(NJ州)のAaron Shatkinの研究室へ留学し、mRNAのメチレーションやキャッピング(Capping)について研究していた私は、その多くに共同研究で関わっていたり、手を貸していたりして、発見者やその友人たちと、驚きや感動を共に喜ぶことができた。

それらのエピソードの背景や発見者の人物像などについて、この欄で紹介させてもらうつもりである。この時点で思い浮かぶのは、核内mRNA前駆体hnRNA(Jim Darnell)、キャップ依存セルフリータンパク合成の発見(Shatkin研の仲間たち)、Kozakルール(Marilyn Kozak)、キャップ結合タンパクeIF4E(Nahum Sonenberg, Witold Fillipowics / Severo Ochoa)、インフルエンザウイルスがキャップを盗むCap-snatching現象(Robert M. Krug)、RNA splicing (Phil Sharp & Rich Roberts)、ポリオウイルスの感染戦略(Akio Nomoto & Nahum Sonenberg)、キャップ分解Decapitase酵素(Don Nussら)などがある。

これらの諸発見に、私が何らかの形で参加したり、流暢でもない英語で「もの申す」ことが出来た裏には、私自身が、その数年前にウイルスmRNAがS-Adenosylmethionine(SAM)によりメチル化されることや、mRNAの5′末端にはキャップ(m7GpppNm)とよばれる奇妙な構造があることを発表していて、当時のmRNA研究分野の先駆者になっていたからである。それらの源泉をたどれば、国立遺伝学研究所(遺伝研)の分子遺伝部で故三浦謹一郎先生と行っていた蚕細胞質多核体病ウイルス(CPV:10本の2本鎖RNA遺伝子とRNAポリメラーゼを粒子内に含む)に関する数年間の研究成果に基づいている。まず、そこから発見のエピソードを始めたい。

キャップ構造の発見

1970年に遺伝研に新設された分子遺伝部は、三浦部長に、「tRNAの構造・機能」の研究で博士課程(東大薬)を無事終えて就職した私(研究員)と、下遠野邦忠さん(北大博士課程大学院生)を加えた、研究者3人からなる小所帯で始まった。当然、研究費も極めて少なかった。研究材料として2本鎖RNAをゲノムとして持つ蚕CPVが選ばれたが、これが良かった。3人で手分けして、ウイルスゲノムの末端構造の解析やウイルス粒子内にあるRNAポリメラーゼによる転写反応について研究を進めた。

RNAの3′末端はU(ウリジン)とC(シトシン)であり、5′末端はリン酸基ラベルするとpG(グアニル酸)と2′-O-methyl-pA(アデニル酸)であることが三浦先生の実験からわかった。これは、ウイルスRNA中に、特に5′末端に、メチル化ヌクレオチドがあることの世界初の発見であった。ペーパークロマトグラフィーにより、5′リン酸ラベルしたヌクレオチドを分析するのであるが、三浦先生は2′-O-methyl-pAがほんの少し標準pAより早く移動することを見逃さなかった。そして、これがキャップ構造(図)発見の重要な起点となった。

蚕CPVはレオウイルス種に属するが、三浦先生はかねてより親交のあったAaron Shatkinと共同研究を行い、ここでも、ヒトレオウイルスの片方のRNAには2′-O-methyl-Gp(グアニル酸)があることを確認し、1974年のPNAS誌に発表した1。このころ、[methyl-3H]メチオニンの細胞への取り込みから、有核細胞系のmRNAはメチル化されているのではないかと考える二人が米国にいた、Fritz Rottman(Michigan大)とRobert Perry(Fox Chase Cancer Center(フィラデルフィア))である。二人は、がん細胞のmRNAにメチル化ヌクレオチドがあることを報告していた。遺伝研・三浦研究室のわれわれにとって、これらの人達は「mRNAのどこに、何のためにメチル化が起っているのだろうか?」について強い興味を持つ、いうなれば非常に近い競争相手であった。

私はまた、このころ、1973年秋に、「CPVのin vitro 転写系へSAMを加えると、mRNAの合成が著しく促進し、生じたウイルスmRNAに約2個のメチル基が入る」という驚くべき現象を見出していた。このことは、「ウイルスのRNAポリメラーゼがメチル化酵素とリンクして転写している」ことを示唆するデータであったので、“Methylation-coupled transcription”という新コンセプトを含む論文を作り、Nature誌へ送った。三浦先生からは、「この論文は君一人で、発表しなさい」と言っていただき、そのようにしたのだがーー、残念なことに「Nature is busy」という、いともそっけないコメント付きで、論文は(Rejectされて)返却されてきた。ひとりで作った論文であり、Native Speakerの編集もなく送った論文だったので、英語がひどく、印象はすこぶる悪かったのかもしれない。ただ、論文はPeer-reviewされており、ところどころ英文は直されていた。“玄関払い”ならともかく、これは大変に困ったことだった。というのは、SAMを転写系に入れるなどという、それまで誰もやったことの無い奇抜な操作(現在では当たり前)ではあるが、非常に簡単な操作が、ウイルスmRNAをメチル化するという大発見が、複数のReviewerに情報が洩れてしまったと思われるからである。そこで、1974年2月、大慌てで、ストレスを感じながら、この年から始まったばかりのNucleic Acids Research(NAR)誌へタイプし直して論文を送った。この頃のNARは速報誌で、タイプしたそのままが雑誌に載ることになっていた。幸い、NARは採択してくれ、私が米国留学する時期(6あるいは7月)に発表されることになった2。その翌月のことであるが、おかしなことが起こった。このNAR論文が発行になった後に、Nature誌が8月9日号のNews and ViewsでこのmRNA methylation論文をとりあげ、「elegant なpaper」であると褒めてくれたうえに、約1ページを使ってサマリーを解説してくれたのである3。後年、NatureのEditorにこのことを話したことがあるが、彼は「It happens」と言っていた。

この頃に、また、私は、CPV RNAの2′-O-methyl-pAにはNNM(non-nucleosidic-material)と名づけた不思議な化合物がついていることを三浦先生と発表していた4。これに注意を払う人は多くなかったようであるが、実はこれがキャップ発見へ至る重要な入り口であり、後にこのNNMが7mGppp-であることがわかる。これらのキャップ発見に関わるいくつかのステップについての詳細は、永く論文化しなかったのだが、昨年、山川民夫先生や関谷剛男先生に肩を押されて日本学士院会の会誌PJA-seriesへ「Discovery of 7mG-cap in eukaryotic mRNAs」という題名で発表したので、興味のある方はご覧になって頂きたい(http://doi.org/10.2183/pjab.91.3945

キャップの発見は、日本では1975年初頭の古市・三浦によるNature論文6で発表されたということになっているが、米国では同時期のFuruichi・ShatkinによるPNAS論文7をサイトする向きが多い。古市もFuruichiも同一人物、つまり老生なのであるが、これはどうしたことであろうか?

1974年6月、Shatkin研究室へ留学する際、私は三浦先生と共著で、CPVのmRNAは、5′末端にNNM~mAp――という変わった構造を持つという論文をNature誌へ送って米国へ旅立った。Natureからの返事は、「NNMを明らかにすれば受理する」というものであった。このNatureからの答えは多少予期していたものであり、意気消沈するほどのこともなかったがNNMを解明するには「日本ではお金がかかり難しい」ことがわかっていて、「でも、米国でなら早く出来るかもしれない」という気もしていた。実は、NNMはプラスチャージを持つことをすでに突き止めていたこともあり、7mGであろうと見越していたものの、in vitroでCPVのmRNA合成の際に加えるSAM(プラスチャージを持つ)それ自体がそこに入っている可能性を見捨てることが、どうしても出来なかったのである。SAMは、3H-Me-メチルラベルは10万円以下で購入できたが、メチル基以外に放射性元素が入っているSAMは、例えば[3H-2-]SAMは高価で、最小単位で40万円(現在はどうか不明だが、日本での放射性試薬の販売価格は、異常に高かった)。当時、私が得ていた科研費Cの年間予算は50万円だったから、決め手となる重要な実験ではあるが、三浦研究室の予算で[3H-2-]SAMを買えるはずはなかった。だから、「アメリカへ行ったら、何をおいても3H-2-SAMを購入しよう」そして、「Shatkin研のレオウイルス使って、3H-2-SAMがin vitroでレオウイルスmRNAへ取り込まれるか調べよう」と心に決めていた。

ロシュ分子生物学研究所では、試薬の購入は、放射性試薬も含めて$400までは自由に注文することができたので、着任翌日には、購入担当の女性ステラに早速3H-2-SAMの発注を頼んだ。ステラは「日本から来て、ベンチも、住むところも決めてないのに、来てすぐに高い試薬を注文するなんて、あんたは、なんて人なの」などと言いながらも、快く注文してくれた。さて、肝心の実験であるが、3H-Me-SAMはレオウイルスのNNM~pmGのNNMへもpmGへも入るが、3H-2-SAMは一切mRNAに取り込まれることはなかった。そして、ここへきて、NNMが7mGpppであることが固まり、[α-32P]GTPの32Pも7mGpへ入ることの確認もとれ、レオウイルスでは7mGpppGmが, CPVでは7mGpppAmがmRNAの5′末端構造であることがわかった。これらの実験結果は、国際電話で三浦先生へ逐次報告し、それがリバイス中のNature論文への良い回答となって、9月24日に論文は受理された。

レオウイルスのmRNAに関しても、Shatkin研からの論文ドラフトが早々にできあがり、Shatkinの師匠であるロックフェラー大のTatum教授(赤パンカビの遺伝学でノーベル賞受賞)が11月1日にコミュニケートしてくれて――こちらはレビューなしのスピードで――PNAS誌へ採択されることになり、古市・三浦のNature論文6とFuruichi・ShatkinのPNAS論文7は1975年の1月に同時に発表された。このPNAS論文は, この年から始まったCurrent Contentのサーチで「1975年Most cited paper」に選ばれ、古市・三浦Nature論文は僅差で第2位となったが、両方とも、インパクトの大きな論文であることが証明された。

そのようなことで、mRNAキャップの発見は日米合作である。この間の事情を知らない向きからは、後年「全部日本でやってほしかった」とか、「いいところを外国へ持って行かれたのでは――」と苦情を聞くこともあったが、昔も今も、最先端研究のCompetitionは半端ではないので、要注意だ。実際、1975年PNAS 1月号には、NIHのMoss研究室から、ワクシニア・ウイルスのmRNAが7mGpppGmと7mGpppAmの二つのタイプの5′末端構造を持つことが示され8、オーストラリアのCory & Adamsチームも、同年のNature誌(5月1日号)に、がん細胞のmRNAにキャップ構造があることを発表している9。研究競争では先陣争いがつきものだが、古市・三浦論文6は9月24日受理、Furuichi / Shatkin PNAS論文7は1974年11月1日受理、Wei / Moss PNAS論文8は11月8日受理、Cory / Adams Nature論文9は翌1975年3月27日受理だったから、厳しい先陣争いであったことには違いない。いずれにしろ、日本発の「mRNAメチレーションの先駆的発見」が世界で負けなかったことを大きな喜びとしたい。三浦先生もShatkin博士も数年前に故人となられたが、せめてあの世では、競争抜きの、思い出話をしたいものである。

――そのようなことで、「日本から来たポスドクが3か月間でMost cited paperを作った」とか、というレジェンドがついて回り、留学の初期から周囲のRNA研究者との交流が非常にやりやすくなり、皆さんが私のアドバイスを尊重して聞いてくれる素晴らしい状況が生まれた。次回からはそれらの交流を通して得たRNA研究・発見のエピソードなどを紹介してゆきたい。(了)

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References

1. Miura K, Watanabe K, Sugiura M, Shatkin AJ.
 The 5′-terminal nucleotide sequences of the double-stranded RNA of human reovirus.
 Proc Natl Acad Sci U S A. 1974 Oct;71(10):3979-3983.
 PMID: 4530278

2. Furuichi Y.
 "Methylation-coupled" transcription by virus-associated transcriptase of cytoplasmic polyhedrosis virus containing double-stranded RNA.
 Nucleic Acids Res. 1974 Jun;1(6):809-822.
 PMID: 10793759

3. Smith AE.
 Modified nucleotides in messenger RNA?
 Nature 1974 Aug;9 250(5466) 461.
 PDF (237K)

4. Furuichi Y, Miura KI.
 Identity of the 3′-terminal sequences in ten genome segments of silkworm cytoplasmic polyhedrosis virus.
 Virology. 1973 Oct;55(2):418-425.
 PMID: 4742779

5. Furuichi Y.
 Discovery of m(7)G-cap in eukaryotic mRNAs.
 Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2015;91(8):394-409.
 PMID: 26460318

6. Furuichi Y, Miura K.
 A blocked structure at the 5′ terminus of mRNA from cytoplasmic polyhedrosis virus.
 Nature. 1975 Jan 31;253(5490):374-375.
 PMID: 163011

 PDF (414K)

7. Furuichi Y, Morgan M, Muthukrishnan S, Shatkin AJ.
 Reovirus messenger RNA contains a methylated, blocked 5′-terminal structure: m-7G(5′)ppp(5′)G-MpCp-.
 Proc Natl Acad Sci U S A. 1975 Jan;72(1):362-366.
 PMID: 1054511

8. Wei CM, Moss B.
 Methylated nucleotides block 5'-terminus of vaccinia virus messenger RNA.
 Proc Natl Acad Sci U S A. 1975 Jan;72(1):318-322.
 PMID: 164018

9. Adams JM, Cory S.
 Modified nucleosides and bizarre 5'-termini in mouse myeloma mRNA.
 Nature. 1975 May 1;255(5503):28-33.
 PMID: 1128665

 PDF (1.6M)

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