東京大学・鈴木研究室D2の秋山奈穂と申します。構造解析を通じて、tRNA修飾が遺伝暗号を制御する仕組みについて調べています。光栄なことに、昨年度の第23回日本RNA学会年会にて青葉賞をいただきました。この度副賞にて海外渡航をご支援いただき、RNA 2023に参加してまいりましたので、拙文ながらそのご報告をさせていただきます。
今回は、RNA 2023およびジョイント開催されたSTEP Ahead into an RNA world workshopで計1週間強のシンガポール滞在となりました。シンガポールの街は非常に治安が良く、交通網や商業施設、美味しいご飯も充実しています。科学分野でも目覚ましい発展を遂げているシンガポールでのRNA Society meeting開催は、アジアのRNA研究の盛り上がりを象徴するイベントだったのではないでしょうか。私にとっても、2回目の国際学会、初めてのRNA Society meetingということでワクワクしながら当日を迎えました。
序盤のworkshopは、シンガポールで行われているRNA研究の内容を概観し参加者同士の交流を深めるという趣旨で、シンガポール国立大学(NUS)のキャンパス内で行われました。なんと参加者全員に渡航費支援が出るという太っ腹ぶりです。1日目は若手研究者による4つのトークに加え、シンガポールのRNA研究の紹介がありました。シンガポールでは、NUSや政府管轄の研究機関・A*STARといった、限られたいくつかの研究拠点に対して集中的に資金が投下されています。RNA研究においては、特に疾患や感染症関連で臨床応用を志向したプロジェクトがかなり多いようです。2日目は、Genome Institute of SingaporeのNGSプラットフォームとBioprocessing Technology Instituteを見学しました。一見きれいなビル街なのですが、建物に入ってみると次世代シーケンサーや細胞培養用の巨大なバイオリアクターがずらりと並んでいます。都心部からほど近いエリアに研究拠点が集まっているのは、国土が狭いシンガポールならではの光景だと感じました。
2日間のworkshopを通じて、各国の博士課程の学生と話す機会が多々ありました。印象的だったのは、自己紹介の後みな開口一番に「あなたはacademiaとindustryのどちらに行きたいの?」とキャリアの話が出ていたことです。各国のアカデミックポスト事情なども知ることができました。また、積極的にSNSのアカウントを交換していたのも日本だとあまり経験のないことでした。学生や若手研究者の方でまだアカウントをお持ちでなければ研究用のTwitterやLinkedInなど開設してみてはいかがでしょうか?
さて、後半はいよいよRNA2023です。3つのkeynote talkから、学会がスタートしました。個人的には、スプライソソームの構造解析で有名なYigong Shiのトークを聞けたのが感慨深かったです。2015年に決定された酵母スプライソソームの構造から近年報告されたマイナースプライソソームの構造まで網羅的に見ていく中で、構造解析技術の急速な発展とそのインパクトの大きさを改めて感じました。その後は、マリーナベイサンズ裏の植物園でのレセプションでした。mRNA医薬が注目を集めていることもあり、日本からの参加者の中には製薬企業の研究員の方もいらっしゃいました。
以降は連日朝9時から夜11時までトークやポスター発表など、ハードスケジュールであっという間の4日間でした。普段tRNA修飾やリボソームにフォーカスして研究をしている私にとって、幅広い題材のRNA研究に触れる貴重な機会となりました。2日目のポスターセッションでは、tRNAのシチジン修飾の新しい機能について発表しました。内容は第24回年会でお話しさせていただいたものです。初めての対面かつ英語でのポスター発表は緊張感がありましたが、計算科学、化学など多様なバックグラウンドの研究者の方々とディスカッションでき良い経験となりました。会場を見渡してみると、RNAの修飾や構造の検出法など新技術を題材とするポスターが多い印象です。各ポスターにPIクラスの審査員が付いており、議論の機会を増やす意味でも、こうしたシステムは日本の学会でも是非広まってほしいと感じました。ほかにも$200の賞金付きPoster prizeなど、発表者のモチベーションにつながる仕組みが導入されていました。ありがたいことに、私もPoster prizeを受賞することができました。
写真 1 Poster Presentation Prize受賞に際して (左:鈴木先生、右:鈴木研卒業生・現CSHLポスドクの石神宥真さん)
また会期の合間で、シンガポールにいらっしゃる平尾一郎先生、木本路子先生にお会いしました。長年研究されている人工塩基対を活用してタグシクス・バイオを創業、数年前に理研からA*STARに拠点を移して、シンガポールでまた新たな会社(Xenolis)を立ち上げられています。特に平尾先生は、私の指導教官である鈴木先生と昔同じ研究棟にいらしたご縁があるとのことで、サイエンスパークの研究施設を案内してくださいました。海外でポストと評価を得ることの大変さ、バイオベンチャー立ち上げと特許申請の難しさについて、貴重なお話をたくさん伺いました。お二人とも、「色々大変だけど、どうにかなるもんだよね」と楽しそうにお話しされていたのが非常に印象的でした。
写真 2 平尾一郎先生(右)、木本路子先生(右から2番目)と鈴木研メンバー
今回の学会期間は、改めてRNA研究の裾野の広さと盛り上がりを感じるとともに、様々なバックグラウンドのバイタリティ溢れる研究者の皆様に感化される1週間となりました。今後の研究生活も、日頃触れない研究領域にもアンテナを張りつつ、様々な研究者の方々と関わっていきたいと思います。最後になりましたが、青葉賞受賞と渡航支援に際し日本RNA学会の皆様には大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。