埋もれていた発見

RNAに関する幾多の発見を述べてきたあとで、―――RNAやDNAが、何時、誰によって発見されたのかを今になって述べるのは、いささか面映いが、この稿では大元に戻って、そのこと、つまりDNAの発見について紹介したい。実は、筆者も以下に述べる研究所を訪れる1980年代末まで知らなかったのだが、発見者が活躍した場所は、スイスの北西部の町バーゼルである。この町は、フランスとドイツの国境で、交通の要地であることから、昔から商業の町として栄えていた。その、人口30万ほどの町に、フリードリヒ・ミーシャ―研究所 (Friedirich Miesher Institute:以後FMIと略す) という小ぶりな研究所がある。このFMIは、歩道に面した小さな玄関から入るが、中は結構広い。食堂はノバルティス社と共用で大きく、献立も豊富だ。FMIの建物は、以前は、製薬会社チバ・ガイギーの研究所であったが、チバガイギーが同業のサンド社と合併してノバルティス社になった時から、FMIという名前になり、Publicにオープンな基礎研究所になった。研究所は、筆者が居た米国のロシュ分子生物学研究所や日本の三菱生命科学研究所や、あるいは、利根川進博士が居たロシュ・バーゼル免疫学研究所と同様、大企業に支援された基礎研究所だ。特徴は、RNAに研究の主力を置いていることである。現在の所長は女性で、スーザンGasser博士だ。私の昔からの友人ビテックFillipowicz博士がいる研究所でもあり、2度ほどこの研究所でセミナー講演をしたことがある。最初はキャップの話を、2度目にはウエルナー症候群の話をした。そのどちらかの折に、研究所の名前の由来などを聞いたのだが、答えは「この直ぐ近くを流れるライン川にはマスがたくさん上がってくるから、ミーシャ―はその精子に含まれる物質を調べたからだろう」ということだった。確かに、この町のライン川沿いには美味しいマス料理をだすレストランが幾つかある。

フリードリヒ・ミーシャ― 早すぎた発見

この研究所に名前が付けられているミーシャ―は、1844年にこの町で生まれた青年であり、本編の主人公ヨハン・フリードリヒ・ミーシャ― (Johan Friedrich Miescher) である。1869年というから、日本では明治維新の頃である。この年に、彼は白血球細胞の核の中にある不思議な高分子物質を見つけ、これにヌクレイン (Nuclein) という名前をつけた。核 (Nucleus) から取れたから、ヌクレインという名をつけたのだが、このことから、後年、DNAやRNAの名称は、ドイツ語ではNuclein saure (ヌクレイン・ゾイレ)、英語ではNuclei acid (ヌクレイック・アシッド)、日本語では核酸という名称で使われてきている。DNAやRNAの後ろのアルファベットNAに相当する名前である。前の方のDやRは、デオキシリボヌクレオチドやリボヌクレオチドので頭文字で、それらは、何十年もあとになってつけられた。

その他のDNAの構造に関する、いくつかの重要な発見は、それから70~80年ほどの長いラグの後、1944年から1953年までの10年間ほどの短い期間に急展直下に行われたことは注目に値する。これを「激動の10年」とでも言おうか。その間に得られた発見は、

  1. アベリーAveryにより「遺伝性質は、タンパクではなくDNAによって伝わる」ことが発見され (1944)、
  2. Chargaff (シャルガフあるいはチャガフともいう) がDNAの2本の鎖は4種のヌクレオチドからできていて、G-C、A-Tの含量比が1であることを突き止め (1949)、
  3. ロザリン・フランクリンがDNA線維のX線回析データからDNAがらせん構造の繰り返しであることを発見し (1953)、
  4. 最終的にはワトソン・クリックのDNAの分子模型への構築 (1953)

に至るのであるが、ミーシャ―のDNAの発見は、それをおおよそ80年以前に遡ることになっている。重要な発見であっても、余りに早すぎた発見は、本人も重要性が判らず、周囲も理解できなく、高い評価を受けることはない。バーゼルの有志達が、核酸研究を目指す研究所を作った時、「激動の10年」間で行われた数々の華々しい発見の陰にすっかり隠れてしまったミーシャ―の「DNAの発見」を郷土の誇りとして、研究所の名前にフレデリック・ミーシャ― (FM) の名前を付したことは「むべなるかな」と思わざるを得ない。

図1
写真1:フレデリック ミーシャ― (写真は全て、Ralf Dahm 博士のレビューRef. 97 & 98 から転載)

偉大な叔父のアドバイスから

ミーシャ―がDNAを発見し、精製し、化学組成を調べた最初のヒトであるが、科学の歴史の中で、彼の名が永く埋もれていたのは何故であろうか? それには幾つかの理由がある。オーストリア・ウイーン大学のRalf Dahm 博士のレビューによれば、ミーシャ―は白血球の核からとれる不思議な化合物ヌクレイン (DNA) について興味を持ち、化学成分を調べていたのだが、それについて、彼自身があまり論文発表をしていないことが第一の理由であろう97,98。ミーシャ―は、実験を慎重に何度も繰り返して再現性を確認している、ーーー実験が大好きだったのであろうーーーしかし、その結果をキチンと論文形式で発表してはいない。ただ、彼はそれらの実験内容や結果を、手紙で、友人達や叔父のバーゼル大学・医学部のWilhelm His教授 (ヒス叔父) にこまめに知らせている。彼が若くして亡くなった後に、ヒス叔父がそれらの手紙を集めて、まとめて、本にして発表したことから、ミーシャ―の仕事の全貌が明らかになった (1897年発行、ドイツ語本2冊、Ref. 97を参照)。――まことに、うらやましい話である。私にもそんな叔父がいてくれたらどんなに良かったろうかと思うばかりである (写真2)。

図2 
写真2:ミーシャ―の叔父Wilhelm His博士 (バーゼル大及びライプチッヒ大教授)

ミーシャ―の生い立ち

ミーシャ―は1844年にバーゼルの医者の家に生まれ、ドイツ・ゲッチンゲンで医師の教育を受け23歳でこれを終了している。しかしながら、父親に勧められた耳鼻科医には興味がなく、ヒス叔父から研究分野での仕事をすすめられ、ドイツのチュービンゲン大学へ研究留学する。実際のところ、ミーシャ―は幼少期に感染症を患い、聴力が落ちていたため、患者を相手にする医師業には向いていなかったと思われる。ヒス叔父は優秀な科学者であり、この人の神経細胞に関する研究から生まれた樹状細胞 (Dendritic cell) は彼が名付け親であり、現在も免疫学の抗原提示細胞の名前として有名である。そのように、このヒス叔父は、細胞の形態に関して詳しかったが、細胞を構成する成分についても、化学的組成などを知りたかったと思われる。そこで、ーーー将来について何をすればよいのか「迷っていた甥っ子」に、「細胞の生化学」をーーー「やったらどうか」と勧めたに違いない。そんなことから、ミーシャ―はアドバイザーである叔父に対してレポートを怠らなかったと思われる。実際、ヒス叔父は、終生、ミーシャ―にとって良きアドバイザーであった。彼がヨーロッパの著名な科学者の許で、次々と短期留学を果し、最新の学識や技術などを学んでいるのは、ヒス叔父の強力な紹介のせいがあってのことだろうと、二人の写真を見ながら推理する。そのようなことで、1868年の春、ミーシャ―はチュービンゲン大学で、有機化学の手ほどきを受けた後、同大学の生化学者ホッペ・ザイラー教授 (Hoppe-Seyler) の研究室で、唯一人の学生として、細胞の化学組成に関する研究をおこなうのである。DNAやRNAの性質を知る現代から彼の研究の中身を見ると、ーーなるほどーーと感心することは多々あるが、電気もない時代に、当然のことだが遠心機などの分離装置は無く、分離はもっぱら布で濾過する方法を取っているから、苦労したと思われる。ただ、物質を燃やして元素分析する技術はあったようである。ところで、ザイラー教授は、ヘモグロビンの発見者としてつとに有名であり、タンパク質 (Protein) の名付け親とも言われている。このことから察して、この当時、ドイツ・チュービンゲン大学は世界の学術をリードする中心的大学であったと思われる。1869年、若干25歳のミーシャ―は白血球細胞について「細胞の成分」を分析している。最初、リンパ節から白血球を集める作業をしていたが、細胞から得られる材料は、元素分析に役立つほどの量が集まらなかった。その後、ザイラー教授のアドバイスにより、外科手術の際の傷病兵らの包帯に着いた膿(うみ)を使って分析を進めている。新鮮な膿は白血球とその死骸からなっているので、ヒト白血球細胞を集めるには、膿は良い材料であり、近くの病院から集めることができた。この頃、ヨーロッパでは戦争が絶えなかったので、傷病兵が多かったと思われる。当時、細胞はタンパクと脂肪でできていて、遺伝は蛋白質により行われると考えられていた。実際、彼は白血球からとれるタンパク質の分別を試みているが、当時の技術ではこれがーーーなかなか、うまくゆかなかった。そんな中で、ミーシャ―は細胞の核から由来したと思われる不思議な化合物についてヒス叔父に報告している。写真は、ミーシャ―がその不思議な化合物 (のちにDNAとわかる) を発見したホッペ・ザイラー研究室を示す。アルコールランプを使う蒸留器と思われるガラス機器がベンチの上に見えるが、そのあたりが最新式の実験器具だったのであろう。

図3
写真3:1867年に撮られたホッペザイラーの研究室。この部屋でDNAが発見された。

最初の発見:核にある不思議な非タンパク性化合物

ある日、ミーシャ―が白血球の抽出液へ酸を加えたところ沈殿が生じた。この沈殿物は、アルカリにもどすと再び溶解した。そして、この沈殿物は薄い酢酸や塩酸水に溶けないことから、タンパク質ではないと思われた。ヒス叔父へのレポートの中で、この化合物が、細胞の中の一画分である核から出て来たことを察知して、この化合物にNucleinという名前を付けている(1869年:ヒス叔父への手紙)。この当時、核についての情報は全くなかったから、これが彼の発見の重要な第一歩だった。そして、白血球から核を精製する方法について、つまり、核を細胞質から分離する方法について、ミーシャ―はプロトコルの確立に精力を注ぎ、次々に改良を加えている。その方法としては、白血球を薄い塩酸で何度も洗い、細胞質内のタンパクを洗い流す。遠心機はないから、単に沈殿するものを自然沈殿と濾過で集め、その中にある“核らしき分画”を顕微鏡で確認しながら、濃縮する方法をさがしている。 次に、この核の分画をエーテルで抽出し、脂肪を除く操作を行っている。当時、エーテルはあったのだ! ーーー外科手術につかう麻酔薬としてーーー使われていたのだろうか。エーテル層には、脂肪が行き、水層には核が浮遊して残る。この水層部分にある核を濾過で集め、ごく薄い炭酸ナトリューム液に懸濁する。すると、核は膨らみ、中にあるものが溶け出してくる。そして、その溶液部分に酸を加えると沈殿物が生じるのであり、これがDNAだった (実際は、DNAとRNAと微量のタンパク質が混入したものだったであろう)。
この全行程は、

  1. 細胞を薄い酸で洗い、蛋白質を細胞質から洗い流す、
  2. エーテルで洗い、脂肪を細胞膜から除く、
  3. 薄いアルカリでDNAを核から溶出し、
  4. 最後に酸を加えたら沈殿物が現れたーーー

ということである。

新物質ヌクレインの発見

彼が最初に得た沈殿物は黄色だったが、タンパク分解酵素のペプシン液 (豚の胃を薄い塩酸で洗ったもの) で処理したところ沈殿物はタンパク質と異なり、消化されないで、白色の化合物として得られた。ペプシン処理で分解されないところから、タンパク質ではないと推定している (写真4)。この沈殿物について、燃焼法による元素分析を行ったところ、驚いたことに、水素と酸素と窒素に加え、大量のリン酸が検出された。一方、タンパク質中に必ず存在する硫黄原子は検出されなかった。ミーシャ―は、これが、タンパク質とは違う物質であり、核から取れたということから、“ヌクレイン”という名前をつけたーーーのちのDNAである。
ヌクレインは、彼が確立したプロトコルにより、白血球以外の細胞からも取れることがわかった。これらのことをミーシャ―はヒス叔父へ手紙で逐次書き送っている。ここまでに、ミーシャ―がザイラーの研究室へ来てから数か月しかたっていないのだが、ここでDNAに関する初期の一連の重要な発見を終えているのであるから、誠にあっけない発見でもある。

1869年12月、彼はこれらの観察を論文にまとめ、師であるホッペ・ザイラー教授へ送り、研究雑誌への発表を頼んでいる。論文では、ヌクレインと名付けた未知の物質が蛋白質と並んで重要な働きをするのではないかと考察し、たとえば、細胞の中のヌクレイン量とタンパク質の量比を測定することにより、病気の原因・病理が判るのではないかと想定している。この後、ミーシャ―は、ドイツ・ライプツィッヒ大学へ移り、病理学で有名なカールLudwig教授の研究室で、一年間、病理学に必要な実験手技の訓練を受けることになる。

さて、ザイラー教授へ送った論文であったが、その発表は簡単には行かなかった。この論文を読んだザイラー教授 (―――当時のタンパク質の大権威―――) はその内容を疑い、自分自身で追試を行ったからである。そして、ようやく、それから2年後の1871年、ザイラー教授は自分で発行している雑誌へ、3本の論文を同時に発表している。1本目はミーシャ―の論文であり、2本目は自分が行った確認実験の論文、そして、3本目は、別の学生にやらせた論文で、核を持つ鳥の赤血球からもミーシャ―の方法でヌクレインが採れるという内容である。「細胞は、蛋白質と脂肪からなっている」という権威を伴う情報が幅を利かせている時代背景の中で、細胞の核には、タンパク質以外の新物質が多量にあるという、弱冠25歳のミーシャ―の論文は、ザイラー教授を大いに驚かせ、疑いを持たせたことは容易に理解できる。往時の、ヨーロッパの大科学者であったザイラー教授は、―――師であり、共同研究者であり、Editor-in-chiefであり, レビュウアーでもあったようであり、そんな研究室の様子が見えるのは興味深い。しかし、ザイラー教授は、雑誌の巻頭言でミーシャ―の研究成果を保証し、大いに評価している。この時点、タンパク伝説の威力は大きく、新物質ヌクレインの発見は、単に燐酸が蛋白質にコンタミしたのだろうという風評もあり、そのこともあって、ザイラー教授は自分でも確かめたのだと思われる。それがあっても、ヌクレイン発見の評価は、機能が全くわからないこともあって、次第に薄れる傾向にあったらしい。大きな発見は、単発の論文では不十分であり、機関銃のように打ち続けなければならないという、教訓がここにも見える。

バーゼルへ帰ったミーシャ

この後、1871年、ミーシャ―は、ライプチッヒ大学からバーゼルへ戻り、バーゼル大学で職を得るための教職審査を受ける。そして、これに無事合格した後は、めでたく彼の父親や叔父が努めていた病理学の教授になるのであるが、彼は講義が苦手であった。ところで、この時期に、偉大なヒス叔父は、バーゼル大学からライプツイッヒ大の教授へと栄転しているので、ミーシャは叔父の講座を引き継ぐことになったのだ。しかしながら、本人の手記によれば、その後の、バーゼル大でのミーシャ―の立場は極めて惨めであり、実験室には何もなく、実験が出来なくて、彼は―――あの、新物質ヌクレインを発見して興奮したーーチュービンゲン大学の研究室を懐かしがる手紙を叔父や友人に書き送っている。

そんな面白くない1年が過ぎるうち、1872年、ミーシャ―はライン川をさかのぼってくる鮭の精子の頭から大量のヌクレインが取れることに気が付くのであり、この発見を、バーゼル自然科学協会 (Naturalist Society in Basle) で発表している。すなわち、鮭精子の頭の部分でヌクレインがプロタミン (彼が発見して名付けた) という塩基性タンパクと結合して入っていること、また、2年後の1874年には、この発見を展開して、他の生物の精子中にもヌクレインがあることをバーゼルの地方誌に発表している。ヌクレインが鮭の精子から大量にとれて、精製度も高い標品がえられていて、DNA中に含まれるリン酸の含量は現代の測定では22.9%であるがミーシャ―の測定では22.5%とほぼ同一であり、ヌクレイン中のリン原子はリン酸として存在していることを報告しているが、これらは150年ほど前の測定結果であるが―――全て正解である。

 図4
写真4:鮭精子から抽出したミーシャ―のヌクレイン (DNA) 標品 (チュービンゲン大学所蔵):バーゼル大の教授になったミーシャ―からザイラー教授へ送られたものと思われる。

これからはヌクレインを現代風にDNAと呼ぶことにするが、ミーシャ―はDNAを抽出するプロトコルを改善し、鮭以外の生物の精子、たとえば鯉、蛙、鶏、牡牛の精子からもDNAが取れることを1874年にBasleの地方誌 (新聞か?) や友人への手紙の中で報告している、―――その中でヌクレインが遺伝物質であると感じていたらしい様子が読み取れるが、間違いも犯している。ヌクレインが高分子であるとはいいながら、元素分析から推定した値から、分子量が1000未満であるとしているが、当時は、分子の大きさを測定する方法がなかったからであろう。

それからのミーシャ―

その後、バーゼル大学内でのミーシャ―の立場は次第に良くなって行くのであるが、講義の準備などにくわえ、研究以外の学内の仕事に多くの時間を取られることになる。1885年には、バーゼル大学で生理・解剖学センターを設立し、そのヘッドとなったりして、重要な責任を負うことになるのである。もともと、誠実で責任感が強く、完全主義的な性格から、それらの仕事に打ち込み、休暇も取らずに研究室で働いたり、睡眠を犠牲にした生活を続けるうちに、可哀想なことに、うつ病になるのである。最初に見たミーシャ―の表情 (写真1) から、筆者は何やら病的な弱々しさを感じたが、ミーシャの生涯を描写したRalf Dahmの伝記97,98からもやはりそうであったかと思わざるを得ない。結局、彼は結核にかかり、仕事を放棄して、スイスアルプス山中のダボスで療養生活に入ることになるが、残念ながら、1895年、51歳の若さで死去する。

ヌクレインに関する研究は、1871年の、ミーシャ―とザイラー教授との最初の論文以来、顧みられることは少なかったが、これを、二人の研究者がフォローしている。一人は、ザイラー研究室の出身で10年ほど後輩のアブレヒトKosselであり、ヌクレインを化学分析し、リン酸基以外に4種の塩基と糖で出来ていることを解明し、1910年のノーベル医学生理学賞を受賞している。もう一人は、ドイツ人植物学研究者のエドワルドZacharias (1852-1911) である。彼はミーシャ―の死後、ヌクレインが染色体の主構成成分であることを観察しているが、この発見―――核の中の、遺伝に関係する場所にヌクレインが存在することの発見に、ヒス叔父は彼がまとめた本の中で、いたく感動している。ミーシャ―がもし生きておれば、叔父―甥の間で、ヌクレインと遺伝との関係で、大きな展開のある議論をしていたに違いないが、残念なことである。実際のところ、後年、バーゼル大でのミーシャ―は、機能の判らないヌクレインの研究よりは、大学内の周囲に理解のしやすい「呼吸により、ヘモグロビンが酸素を受け取る」というダイナミックな反応の研究に惹きつけられていたと思われる。しかしながら、それは、ヘモグロビンの発見で有名なザイラー教授の研究室で学んだことの延長であって、「未知への挑戦」ではなかったように思われるので、これについても筆者は残念に思う次第である。

<トピックス>

このエッセイシリーズの第12話で紹介した「日本発の抗インフルエンザ薬(キャップ依存性ヌクレアーゼ阻害剤)」が、先週、米国FDAで承認を受け、米国でも、この冬から臨床適用できるようになりました。

The cap-snatching inhibitor will now be available
The FDA just approved the first new flu treatment in nearly 20 years

  • The Food and Drug Administration has approved Genentech's Xofluza.
  • Last year, more than 80,000 people died from influenza and more than 900,000 were hospitalized, according to the Centers for Disease Control and Prevention.
  • While approving Xofluza, the FDA reminds people that it is not a replacement for the flu vaccine.

この報道では、シオノギ製薬のXofluzaーーーとは言わず、Genentech's Xofluza となっているのが、真に悔しいが、世界で広く使われるための大きな第一歩であることは間違いないので、ここは我慢しましょう。

<以上>

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