RNA研究の楽しさを地方でも伝えたい!

牛田千里(弘前大学農学生命科学部) 

RNAに興味をもったきっかけはRNAワールド仮説に出会ったことである。以来,RNA機能の多様性を探り,複雑な遺伝子ネットワークのもとに構築されている生体システムにおいてRNAが機能分子としてどのように活躍しているか、少しでも多く知りたいと50-500 nt程度の大きさをもつ”structured ncRNA”を中心に研究を続けてきた。

弘前大学にはずいぶんと長いことお世話になっている。青森県は津軽地方に位置するこの大学は紛れもない地方大学である。赴任当初,国内で最も小規模な総合大学だと聞いた。筆者が所属する農学生命科学部のほか,医学部,理工学部,教育学部,人文社会科学部の5学部と,大学院7研究科からなる。学生総数約7,000人 (学部生・大学院生),教員数約800人と,旧帝大や都市部の大規模な私立大学と比べるとその数はどちらも数分の一から十分の一でしかない。学生はやはり県内出身者が多い。例えば2018年度の入学者をみると44%が青森県出身である。残り56%のうち27%が北海道出身であり,16%が青森県以外の東北から来ている。有名な卒業生に作家の太宰治 (青森県金木市出身,弘前大学前身の旧制弘前高校を1930年に卒業した) がいるが,大学の資料館には太宰が授業中に落書きしたノートが展示されており,一見の価値ありである。

人口約17万人の弘前市は地方の中心都市として伝統を誇り,文化の薫り高く,趣のある街並みをかかえる。りんごや桜,ねぷた祭りで有名である。観光地ではあるが、京都や札幌、沖縄等に比べれば知名度は低く、「弘前 (ひろさき)」の読み方がわからない人も少なくない。遠方の知人には「ひろまえ?」とか「こうぜん?」とか聞かれた。弘前の「ねぷた祭り」を青森市の「ねぶた祭り」と混同されることもある。

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写真1.夜桜と弘前城

さて,今回は「RNA研究を盛り上げるための地方大学での工夫や取り組み」について紹介することがテーマである。原稿執筆依頼のメールには「いい取り組みを全体で共有することで、日本のRNA研究のさらなる発展につながればと期待しています」とある。しまった!昨年のRNA学会年会で「地方大学でのRNA研究について何人かの方に書いてもらおうと思っています」と聞いて、「地方大学での経験なら任せなさい」(ドヤ顔) とばかりに気安く引き受けた。都市部の大学に比べてセミナーや研究会の開催頻度が低いとか、国内の学会に参加するのも物価の安い海外に出かけるのと同じくらい費用がかかる場合があるとか、街も大学も暗くなるのが早いとか、窓を閉めているにも関わらず雪が研究室に降り込んでくるとか (今は新しい建物になったので大丈夫です)、変性ゲルの尿素が寒さのあまり泳動中に析出してくるとか (これも新しい建物になって解消されました)。でも、メールの依頼分にあった「日本のRNA研究のさらなる発展につながる」ような「いい取り組み」や「工夫」なんて意識してなかったゾ・・・。反省。

敢えて一つあげるとすれば学生とのやりとりだろうか。都市部の大学であれば、ポスドクや博士課程の学生が研究室の主力となっていることも少なくない。よしんば自身の所属する研究室にそういった存在がなかったとしても、学生が近隣にその存在を見つける可能性は、地方大学に比べればうんと大きいはずだ。学部生や修士課程の学生は身近にそういった存在を見て研究の進め方や実験のノウハウを身につけていく。そうして、自分が研究を進めていく自信や意識を高めていくことも多いのではないか。先輩だけでなく、志を同じくする友人も間近にいる確率が高いのではないだろうか。多くの学生にとって、「教員」はやはり「教員」である。いくらこちらが「研究に関しては学生も教員も対等だ」とか、「『〇〇先生』じゃなくて、『〇〇さん』でいいよ」とか言っても、ごく一部の頼もしい学生を除いては、幾ばくかの緊張が会話の向こうに見える。先輩や友人であれば、実験の失敗も、ちょっと稚拙かなと思うようなアイデアであっても気軽に話せることが、教員相手にはなかなか披露できないようだ。些細なことかもしれないが、都市部と地方の大学における環境の違いは、学生、特に研究室に所属したての学部生や修士学生の研究に対する姿勢や態度、考え方に案外大きく影響するのではないかと思う。だから、ポスドクや博士課程の学生を増やすことは簡単にはできないが、所属する誰もがどんな些細なアイデアであっても気軽に口にできるような環境を提供することは心がけている。具体的な方法を聞かれると困ってしまうのだが、例えば、折に触れ次のようなことを口にしていることだろうか。どんな意見、質問であっても黙っているよりましであること、互いの意見、質問を尊重すること、時に激しい議論になった (これはこちらとしては嬉しいことなのだが) としてもそれは相手の人格を否定しているのではなく、むしろその人の研究や実験データ・考察に対する興味の表れであること。これに加えて、学生が得意とする私の知らない分野のこと (コンピューターの知識や話題となっている本、映画、音楽、スポーツ、ゲーム等々) を教えてもらったりする。これは、私があなたの先生ではなく、あなたが私の先生になりうることもあるのだということを学生に知ってもらい、物事を対等に、研究を対等に考えて進めていけるのだという自信と気概を身につけて欲しいからである。このような心がけが功を奏しているか否かは定かでないが、時おりセミナーや共同研究の実験に来られる外部の先生方から、研究室の学生の積極性や研究に臨む態度にお褒めの言葉を頂戴する。心なしか研究を楽しむ学生も増えてきたようだ。

RNA研究に限ったことではないが、その発展を望むのであれば、いかに人材を育てるかということが最重要課題の一つである。基礎研究を軽視する風潮のある昨今、地方大学にあって基礎のRNA研究を進めるには厳しい現実を目の当たりにすることもある。しかし、裾野を広げ分野の発展を図るためには、RNA研究の魅力を都市部だけでなく地方大学においても直接学生に伝えることが何よりと考え、今日もラボに向かうのである。