日本学術振興会賞受賞によせて

投稿者 魏 范研 (東北大学加齢医学研究所)

東北大学加齢医学研究所の魏范研と申します。この度は、RNA学会から推薦をいただき、令和3年度日本学術振興会賞を受賞いたしましたので、ご報告いたします。鈴木勉会長をはじめ本賞にご推薦してくださった先生方、申請書類を取りまとめてくださった伊藤拓宏庶務幹事、申請に際してアドバイスをくださったすべての先生方に厚く御礼を申し上げます。受賞の対象であるRNA修飾と疾患に関する一連の研究は私個人の業績ではなく、私が東北大学に異動するまで約10年間在籍していた熊本大学生命科学研究部分子生理学教室を主宰する富澤一仁教授をはじめ分子生理学教室のメンバーならびに国内外の共同研究者の皆様方による成果であり、この場を借りて御礼申し上げます。

最近はコロナ禍ですっかり出不精になってしまい、RNA学会の先生方と触れ合う機会が激減していますので、自己紹介を兼ねてこれまでの研究について紹介させていただければと思います。

大学院〜ポスドク(RNAに出会う前)

私は1996年に東京都立大学理学部に入学し、大学4年生の時に当時久永真市教授が主宰する神経分子機能研究室に入り、リン酸化酵素Cdk5 (Cyclin dependent kinase 5)を研究テーマに選び、研究人生をスタートさせました。Cdk5は当時アルツハイマー病の原因と思われていた分子であり、流行りへの憧れが理由でCdk5を研究対象に決めましたが、後に述べますように、このCdk5が結果的に現在のRNA研究につながっています。修士課程の後、岡山大学医歯学総合研究科博士課程に進学し、細胞生理学教室の松井秀樹教授と富澤先生の下で膵臓β細胞におけるCdk5の生理機能について研究を行いました。神経とは全く異なる臓器での新規研究に戸惑いを感じつつも、恵まれた研究環境で自由に研究をさせていただき、Cdk5は膵臓β細胞においてカルシウムチャンネルをリン酸化することでインスリンの分泌を調節する機能を有することを発見しました。

博士課程終了後、2006年の4月からポスドクとして米国 Yale大学に留学し、リン酸化シグナルと薬物依存を研究するAngus Nairn博士の研究室で薬物依存の分子機序について研究しました。世界トップレベルの研究に携わることができ、非常に刺激のある研究生活でしたが、何よりも世界的な研究者と日々接し、人的な交流を密にできたことが大きな財産となりました。当時教えていた大学院生が学術誌のチーフエディターになったり、あるいはFDAの審査官になったりと、博士終了後に多様なキャリアパスが存在することを目の当たりにして、アメリカという国の層の厚さの理由を知ることができました。余談ですが、当時住んでいたCrown Tower, New Havenには、現在京都産業大学の三嶋雄一郎さんをはじめ多くの日本人研究者が住んでいて、時折食事を共にしていたことはいい思い出です。

熊本大学〜東北大学(RNAとの出会い〜)

ポスドク3年目の時、熊本大学にご栄転された富澤先生からお誘いをいただき、2009年4月にアメリカから熊本大学に赴任しました。当時、2型糖尿病に関するゲノムワイド関連解析研究(GWAS)が世界中で精力的に行われ、2型糖尿病発症リスク遺伝子としてCdk5 regulatory subunit-associated 1-like 1(Cdkal1)が報告されました。前述のように、私は大学院でCdk5を研究していましたので、Cdk5の関連分子であるCdkal1に関する研究プロジェクトに従事することになりました。しかし、Cdkal1とCdk5の関連性を見出すことができず、着任してから半年以上経っても研究の方向性が定まらずにいました。Cdkal1のアミノ酸配列にはtRNA修飾に関わるドメインがあり、また、バクテリアのtRNA修飾酵素と高い相同性を有します。これらのことは基礎知識として知っていましたが、tRNAの観点からCdkal1の機能解析はしていませんでした。研究の行き詰まりを打破するため、思い切ってtRNA修飾について検討してみようということになり、鈴木勉先生にコンタクトを取りました。そして、鈴木勉先生と鈴木健夫先生との共同研究により、Cdkal1はtRNALysをチオメチル化修飾する酵素であることが明らかになりました。この発見が突破口となり、タンパク質翻訳の視点を取り入れてCdkal1欠損マウスの表現型解析を行い、修飾の欠損がインスリンの翻訳異常を引き起こし、2型糖尿病の発症リスクにつながることを明らかにすることができました。

私はCdkal1研究をきっかけにRNA修飾に研究の軸足を移し、特に疾患研究というバックグラウンドを活かし、肝疾患や精神疾患やミトコンドリア病など様々な疾患におけるRNA修飾について研究範囲を広げました。また最近では、細胞内のRNA修飾だけではなく、細胞外に放出される修飾を含むRNA分解産物に着目し、修飾RNAが液性因子として免疫応答を制御することを明らかに、RNA修飾の奥深さを改めて思い知りました。近年、国際的にRNA修飾研究が非常に盛んになり、特に最近のコロナ禍においてRNA修飾の認知度がこれまでなく高まり、RNA修飾は生物学・基礎医学のみならず、次世代医療においても重要なモダリティとなっています。私は、RNA修飾に関する基礎研究に軸足を置きつつ、疾患や治療に希望をもたらすような研究結果を目指していきたいと考えています。

アップルの創始者であるスティーブ・ジョブスがスタンフォード大学で行った講演の中に、次の言葉があります。

「...You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future...」

私はあまり先のことを考えずに研究してきましたが、振り返ってみますと、すべての点がつながって現在に至っています。もちろん、点を残すことができたのは共同研究者のおかげであることは言うまでもありません。この場を借りて皆様方に改めてお礼を申し上げます。この先もしっかと点を残せるように、愚直にサイエンスを追求したいと考えておりますので、厳しくご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。 

 

写真1:2016年韓国済州市で行われたtRNA学会のディナータイム。右から著者、富澤一仁先生、藤村篤史先生(現岡山大学大学院医歯薬学総合研究科助教)、武涌さん(当時熊本大学分子生理学分野大学院生、ミトコンドリアtRNAの硫黄修飾酵素MTU1欠損マウスを解析してくれました)

 

 

 写真2: RNA修飾を分析するための質量分析装置を動かしたりメンテナンスしたりするのが趣味

 

 

 

 

 

 

 

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