危機管理としてのRNA基礎研究

投稿者 稲田 利文(東北大学大学院薬学研究科)

東日本大震災直前に仙台に移動した際に、業者の方から「大きな地震が近いうちに来るので、機器は固定した方がいいですよ」とアドバイスされた。当時、地震が来るということを実感できず、全機器を固定するには至らなかった。その結果、強烈な揺れにより、機器が転倒・破損し、居室の机の下に避難する事態となった。来るべき危機を想定して普段から周到に準備しておくことは、最も有効な対応策であることは自明である。あと数か月で東日本大震災から10年目の節目となる。あの日をもう一度思い出し、日常に流され後回しになりがちな災害対策を、今一度検討する機会としたい。

人類は歴史上何度もパンデミックを経験している。日本でもちょうど100年前の1920年に、スペインかぜを経験している。今我々はSARS-CoV2の第3波に直面しているが、遠くない将来に次のパンデミックが起こることは明白であり、感染症との戦いは簡単に終わらない長期戦である。世界各国の対応策は次回のパンデミックへの貴重な参考資料であり、戦うための貴重な武器となる。台湾の感染対策は、成功例の1つとして知られている。国民の不安を迅速かつ的確な対応で取り除き、政府、国民、メディアが一丸になって感染拡大を抑えている。その背景は、直近のウイルス感染拡大時の苦い経験と、政策の透明性を確保している政府への信頼である。我が国の感染対策と台湾の対策を比較すると、社会全体としての科学リテラシーが重要であることが明確になる。マスコミ関係や政治家が、「PCR 検査」や「RNAワクチン」の原理を正確に理解していれば、政策論議はより深まるはずである。

SARS-CoV2によって、世界中の研究者がRNA研究の重要性を再認識している。鈴木会長の呼びかけにより、国内でもSARS-CoV2関連研究が進んでおり、今後の年会で多くの研究成果発表が期待される。RNA関連の基礎研究が、長期的な危機管理として有効であり、感染症対策に貢献することは疑いの余地がない。筆者自身は翻訳過程における基本的な疑問に答える研究を今後も継続し、将来のパンデミック対策の土台となる情報を発信していきたいと思っている。

 

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