Jennifer Doudna研究室でのポスドク経験

投稿者 福永 流也 (Johns Hopkins University School of Medicine)

今年2020年のノーベル化学賞はCRISPR-Casシステムを用いたゲノム編集技術の開発でカリフォルニア大学バークレーのJennifer Doudna博士とマックスプランク ベルリンのEmmanuelle Charpentier博士が受賞されました。私はDoudna研究室に2007年から2年弱所属してポスドク研究したと言うことで、日本RNA学会編集幹事の甲斐田さんに何か会報に記事をとのお誘いを受けたので書いてみます。

まず初めに私自身の自己紹介をさせてください。私は2007年に東京大学 横山茂之 研究室でアミノアシルtRNA合成酵素の構造機能解析をテーマに博士号を取得しました。大学院を卒業後すぐに渡米し2007年4月から1年10ヶ月間、Doudna研究室でポスドク研究を行いました。植物のRNAi経路に関わることが遺伝的研究から分かってたものの分子機能未知であったSGS3が、RNA結合タンパク質であることやその結合特異性などを生化学的に解明しました (Fukunaga and Doudna. 2009. EMBO J)。その後さらにマサチューセッツ大学メディカルスクールのPhilip Zamore研究室で4年半セカンドポスドクをしました。ショウジョウバエをモデルにmiRNAやsiRNAの生成因子であるDicerについての研究を行いました。その後2013年よりジョンズホプキンス大学にて独立した研究室を運営し、RNA結合タンパク質やmiRNA/siRNAによる転写後調節をテーマに研究しています。日本RNA学会会報第28号でアメリカでのアカデミックジョブハントの様子などを記事に書いたことがあるので興味がある方は見てみてください。

さて、本題のDoudna研でポスドクをしていた時の様子を書いてみます。私がいた当時は20人ほどのラボでした。比較的少人数のラボが多いアメリカではかなり大きい規模です (現在はさらにその数倍になっているみたいです)。国際色豊かで、研究者としても個人としても優秀で素敵な個性的なメンバーが集まっており、彼らとの日々の議論はとても有意義なものでした。Doudna研では研究テーマもその進め方も個々人それぞれにかなり自由にまかされていました。RNAに関することなら何やってもよいよって感じでした。なのでラボ内でとても多岐にわたるプロジェクトがなされていました。持ち回りで一人が進捗状況を発表する毎週のラボミーティングではいつもJenniferからも他のメンバーからも建設的なコメントや質問が飛んでいました。それ以外にもJenniferは時々フラっと実験室にラボメンバーと立ち話をしに来て、面白い実験結果やアイディアがあると長時間話し込む、と言うスタイルでした。Jenniferはラボメンバーに対して怒ったり理不尽なプレッシャーをかけたりすることはあまりなく、とてものびのびとやらせていたと思います。研究の進め方の議論で何かを提案する時も、「これこれやってくれ」とか言うことはまれで、「これこれやってみたら」とか「これこれやってみようか」とか、あくまでメンバー自身に主体的に取り組ませるような議論の進め方だったように思います。ただし、やる気のない人には厳しく、参加して1ヶ月くらいで首になったポスドクもいました。とにかく、Jennifer本人も他のメンバーも、研究に真剣に取組みそれを楽しんでいたと思いますし、Jenniferはそういう研究室の雰囲気作りを大切にしていたんだろうなと思います。もちろん研究だけじゃなく、みんなで外食、BBQ、学内のソフトボールリーグ参加、メジャーリーグ観戦、など研究室の外でも楽しく過ごしていました (写真はラボ全員でBBQ)。

私が在籍していた当時はまさにDoudna研でCRISPR/Casのプロジェクトが立ち上がったところでした。アメリカ人ポスドクのBlake Wiedenheft (現モンタナ州立大学 准教授) や、アメリカ人大学院生のRachel Haurwitz (現Caribou Biosciences CEO) らが色々なCasタンパク質を大腸菌で発現させ精製し、DNAやRNAへの結合や切断の活性をin vitro生化学で調べたり、X線結晶構造解析を行っていました。チェコ人ポスドクのMartin Jinek (現 チューリッヒ大学 教授) は私の在籍時は哺乳類RNAiまわりのプロジェクトをメインにやっていましたが、機動性高く他にも色々なプロジェクトに携わったり他のメンバーの手助け (主にX線結晶構造解析の) をしたりしていました。2011年3月にプエルトリコでのAmerican Society for Microbiologyの学会でJenniferとCharpentier博士が出会いCas9についての共同研究を開始することになり、Martinが取り組むことになり、そこからわずか1年ちょっとで、2012年6月のあのサイエンスの論文へとつながっていったそうです。CRISPR/Casのプロジェクトを新規に始めたときは、細菌でRNAが新規の免疫システムに関与していそうな感じだ、ぜひ詳細や仕組みを調べてみよう、という純粋な基礎サイエンスの興味からだったものが、そこからたった数年で農業や医療などを含め、ものすごく広い範囲で応用できる生物学的ツールになったのは本当にエキサイティングですよね。純粋な興味から始まる基礎サイエンスの可能性と重要性を非常によく示していると思います。

今年はCRISPR-Cas のノーベル賞に加え、RNAウイルスであるSARS-CoV2の大流行で、RNA研究の重要性が世間にもよく認知されたのではないかと思いますし、RNA研究者にとっても励みになったり、またある種の使命感みたいなのものを感じることもある年になっているのではないでしょうか。まだまだ分からないことだらけで面白く重要なRNA分野、私自身も今後も楽しんで研究を進めていきたいと思っています。ポスドクも随時募集していますので、興味ある方はお気軽に連絡してください。


写真:2008 年のDoudna研メンバー。近くの山にある公園でBBQをしに行った時。

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