研究テーマを選ぶとき

投稿者 齊藤博英 (京都大学 iPS細胞研究所)

本年度よりRNA学会の評議員として学会運営に初めてかかわらせていただくことになりました京都大学の齊藤と申します。私は2010年に独立し、かれこれ10年が経とうとしています。これまで、生命の起源からiPS細胞分野まで、いろんな分野に身をおいてきましたが、自分がどのように研究テーマを選んできたかについて少し述べたいと思います。日々研究に励み、これから自身の研究室を立ち上げていく学生さんや若手研究者の方々の参考に少しでもなれば幸いです。

私が研究テーマを選ぶときには、次のことを大切にしています。

  1. 自分の興味と本能を信じる
  2. 分野の未来を夢想する
  3. 新しいことを貪欲に学びつつ自分の強みを生かす
  4. 異分野の知識や技術を融合し、尖った研究に挑戦する
  5. 独立したテーマを複数はしらせる

私が最初に選んだ研究テーマは、「RNAと生命の起源の関わり」でした。このきっかけは、渡辺公綱先生の授業でした。少し古びた工学部の教室で渡辺先生は淡々と分子生物学の授業をされました。その際に、黒板に書かれた「RNAワールド」という言葉が私の目に留まりました。もともと宇宙の起源の研究がしたくて大学に入学したものの、物理の授業が全く理解できず化学生命工学科に進学した私は、このRNAと生命の起源の問題に強く興味を惹かれました。そして幸い博士課程在学時に、菅裕明先生の研究室 (当時アメリカニューヨーク州立大学) への参画を認められ、tRNAにアミノ酸を転移するRNA酵素の試験管内進化に成功しました。「RNAは酵素にもなりうる!」。この時にえられた興奮が、今も研究の原動力になっています。生命や細胞の始まりを少しでも理解したいという気持ちは私自身の無意識の部分から連綿とにじみでるようで、この本能的な感覚は、研究テーマを決める上で大切にしたいと考えています。

大学院卒業後のポスドク先として、がん研究所の蛋白創製研究室 (芝清隆先生) を選びました。当時2000年の初頭はSynthetic Biology分野が始まりつつあり、生命システムの理解と制御を目指すこの分野に大きな可能性を感じました。大腸菌に設計した人工遺伝子回路を導入し、その挙動を制御する研究が注目を集めていましたが、今から同じことをしても勝てないと感じ、今後は哺乳類合成生物学の分野が大事になるだろうと考え、今まで経験がなかった、哺乳類細胞の実験やタンパク質工学を学びました。この時に分野を大きく変えたのが、研究分野の対象を広げる上で役に立ったと思います。

2005年より京都大学に生命科学研究科の遺伝子動態研究室 (井上丹先生) に助手として着任し、RNAとタンパク質の分子デザインによるSynthetic Biology研究を開始しました。井上先生は、リボザイムの発見でノーベル賞を受賞したトーマス・チェック博士のところでポスドクをされ、その後もリボザイムの研究を続けられていましたが、私がRNA Synthetic Biologyをやりたいというと「古い分野で成功したからといって、似たような研究を続けていてはダメです」と話され、それまでの研究室のテーマに捉われず、前面的に新しい研究を開始することができました。ボスのテーマに沿って同じような研究をすると、自身のアイディアや成果とは認められにくいので、この井上先生の判断には大変助けられました。私自身もその教えから、研究室メンバーが自身のアイディアを元に、新しい研究を自由にできる研究室を作りたいと感じています。RNA Synthetic Biologyに関する研究は、最初は苦労し周りの方にも心配されましたが、RNAやRNPの分子デザインを基軸にすえたため、それまでに培った研究の強みを生かすことができました。

そして2011年よりiPS細胞研究所に異動し、自身のラボを本格的に立ち上げました。さらに全然違う分野に身をおいたきっかけは、「RNA Synthetic Biologyの研究は将来の医療に役立つかもしれません」とよく口にしていたのですが、本当に医療応用につながる研究をしてみたかった (本当は妻から公募にアプライしてみたらとアドバイスを受けたのも大きな理由です) からです。ここで幹細胞分野の技術とRNA工学の技術を融合し、マイクロRNAの存在に応じて目的の細胞を選び出すことのできる人工mRNA (マイクロRNA応答スイッチ) を開発しました。RNAを細胞に直接導入して目的の細胞を純化する発想の研究はそれまでなかったので、幹細胞分野にRNA Synthetic Biologyの技術を応用し、少し尖った研究ができたのではと感じます。この技術開発には当時ポスドクとして研究室の立ち上げに参画してくれた遠藤慧君 (現東京大学助教) が大きな貢献をしてくれました。このように分子デザインしたmRNAやマイクロRNAなどを用いて、細胞の運命を自在に制御、プログラムすることが、今の大きな研究目標の一つです。

本年度、「RNAを基盤とする合成生命システムの創成」という研究申請が採択され、幸いにも5年かけて自身がやりたい研究を進められる準備が整いました。RNAやRNA-タンパク質相互作用を基盤として、細胞や個体の運命制御や、生命の起源や細胞の成り立ちに迫る複数のテーマにチャレンジします。このような挑戦的テーマを採択いただいた審査委員の方々に感謝の気持ちで一杯です。是非尖った研究を実践したいと今からワクワクしています。このプロジェクトに関して研究員、技術員を今から募集します。これを読んで、私たちの研究に興味をもってくれたみなさん、ぜひご連絡ください。また、ご自身の研究室や周りでポジションを探されている若手研究者がおられたら是非お声がけいただけますと幸いです。最後になりますが、本年度は様々な変化を目の当たりにし、若手の皆さんも今後の研究やキャリアに心配があると思います。鈴木勉会長のもとで、RNA学会から日本の研究を盛り上げていくことに少しでも貢献できるように頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

このカテゴリをもっと見る 金言とセブンイレブンの冷やし中華 »