今回のミーティングはドイツのハイデルベルグにある欧州分子生物学研究所で行われました。会場はとても特徴的な構造になっていて、DNAのように2本のスロープが二重螺旋を形成していました (所々に架橋があり、渡れるようになっている) (写真参照)。ポスター発表はこのスロープを使って行われていました。
学会の内容はリボソームプロファイリングなどの次世代シーケンサーを用いた網羅解析、構造解析や一分子解析など多岐にわたっていました。中でもリボソームプロファイリングに着目してみると、単にリボソームプロファイリングを行うのではなく、microfluidic chipを用いてRNA精製処理を行う事でsmall inputでのリボソームプロファイリングを可能にするなど、工夫を凝らしたものもありました。また今回のミーティングではリボソームが2つ連なり渋滞を起こしている箇所を特異的に解析するDisome profilingが連続で発表されたことがとても印象に残りました。通常のリボソームプロファイリングではリボソーム内に保護されRNase処理を逃れた約30塩基のmRNA配列を次世代シーケンサーで解析します。一方でDisome profilingではリボソーム二つ分に相当する約60塩基のmRNA断片を解析します。これによりリボソームがある特定のコドンで渋滞を生じている箇所を網羅的に特定することが可能になります。この手法を用いて、リボソームの翻訳停滞が生じやすいアミノ酸配列やRQCとの関係性をそれぞれ議論していたことが興味深かったです。Roland Beckman博士らの研究グループのDisomeの構造解析に関する発表や、当研究室のDisome profilingを用いた研究成果なども合わせるとDisomeの研究はホットなトピックであったと言えるのではないでしょうか。これまでにも新生ポリペプチド鎖がシャペロンと相互作用しているリボソームのみを抽出し、リボソームプロファイリングを行うselective ribosome profilingなどがありましたが、2009年のIngolia博士の論文から10年が経った今も、次々とribosome profilingの変法が生み出されているようでした。
私自身は今回の学会で、フットプリントの長さによって大腸菌リボソームの構造状態を推定できる、という成果を発表しました。今回ポスターを見に来て頂いた方々からは私の研究結果を評価してもらう事ができた一方で、sample preparationの段階で大腸菌のリボソームをいかにして完全に止めるかという議論を持ちかけてくる人が多かったです。というのも大腸菌を用いたリボソームプロファイリングはコドンレベルでの解像度が真核生物に比べて低く、さらに従来の手法ではコドンにバイアスが生じるという問題点がありました。現在はAllen Buskirk博士らが新手法を提唱したことでかなり改善しましたが、それでもまだ真核生物の域に達したとは言えません。今後さらなる改良がなされることを期待します。
今回の学会参加は新たな知見を勉強しに行くだけではなく、自分自身の研究を振り返る良い機会となりました。最後になりますが、EMBL Protein synthesis and Translation controlへの参加をRNA学会からご支援いただけたことを感謝申し上げます。
写真. 欧州分子生物学研究所