育志賞受賞によせて

余越 萌(京都大学iPS細胞研究所)

2016年3月に大阪大学大学院医学系研究科の河原行郎先生のラボで学位を取得し、現在は京都大学iPS細胞研究所の齊藤博英先生の元でポスドクをしております余越萌と申します。2016年に日本RNA学会から推薦をいただき、「第6回日本学術振興会育志賞」を受賞することができました。この受賞に関しまして、編集幹事の北畠先生より原稿の依頼をいただきましたので、大分年月が経っており恐縮ですが、拙文ながら寄稿させていただきます。

受賞研究課題は、「神経変性疾患発症に関与するAtaxin-2のRNA代謝における機能解明」です。簡単に研究概要をご説明しますと、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遺伝性脊髄小脳変性症2型(SCA2)、パーキンソン病などの複数の神経変性疾患の発症の鍵を握るAtaxin-2蛋白質の機能を明らかにしました。これまでAtaxin-2は神経変性疾患に関連することは知られていましたが、具体的にどのような機能を持っているのかは不明でした。そこで、私たちの研究グループは、PAR-CLIP法と呼ばれる蛋白質に結合するRNAを高純度に精製する手法と、次世代シーケンサーを用いた解析を組み合わせ、Ataxin-2に結合するRNAとその結合部位を網羅的に決定することに成功しました。その結果、Ataxin-2が、RNAの安定化を促進する蛋白質であることを突き止めました。また、ALSやSCA2で認められている遺伝子変異が、Ataxin-2のRNA安定化機能を低下させることも発見したことから、本研究成果が、神経変性疾患に共通した発症病態の解明や将来的に新たな治療法の確立につながる可能性が示唆されました。

PAR-CLIP法は、当時は比較的新しい手法であり、操作が煩雑で技術的に難易度が高く、世界でも限られた研究室のみで実施されているのが実情でした。私の場合、周りに経験者が全くいなかったため、細かい技術的なコツなどが分からず、途中で諦めかけたこともありましたが(特に、1回の実験につき、薄暗いRI室に1週間軟禁されるという苦痛が大きかったです)、河原先生から手厚いご指導を賜り、研究室の先輩からも大変なご尽力をいただいたおかげで、PAR-CLIP法を国内で初めて確立させることができました。特に、私が研究室に配属されて最初の先輩であった李全さんが元々違うタンパク質でPAR-CLIP法を確立させ、私に多くのことを教えてくださいました。もし李さんがラボにいなかったら、今の私はなかったといっても過言ではありません。さらに、網羅的シーケンスで得られた結果は、最終的にはプログラミング技術による情報解析によって検証する必要がありました。私は情報解析に関しては全くの無知でしたが、プログラミングに精通した研究室の同僚とディスカッションをしながら研究を進めることで効率的に大規模なデータ解析を行うことができました。よって、この研究は私1人の力では決して成し遂げることができなかったものであり、研究室のメンバーと協同したことで達成できたものであると強く感じています。

受賞の知らせは、2016年の新年早々に、日本RNA学会から受賞内定の報告をメールでいただきました。真っ先に河原先生に報告し、「嘘でしょ!?信じられない!」とお互いに大変驚きましたが、とても喜んでくださいました。授賞式は、普段猫背の私でさえも背筋を曲げることを忘れるくらい厳かでかつ大変華やかなものでした。秋篠宮両殿下がご臨席くださり、記念茶会では受賞者1人1人しっかり目を見てお話ししてくだいました。大変感銘を受けたことは、両殿下がお話を聞いてくださっただけではなく、私の研究について事前にお調べになってくださったのかしら?と思うくらい、詳しい研究内容をご存知でいてくださり、濃密なディスカッションをすることができたことです。ただただ光栄であり感無量でした。今後も日本のために働いていきたいと気持ちを新たにしました。

育志賞は本当に特別な賞だと思います。現在は、幹細胞の転写後調節機構の解明を目指して研究を行っていますが、将来的には、育志賞の受賞テーマである「RNA代謝異常病」という新しい研究領域を牽引し、難病解明, 治療法へとつなげていきたいと考えています。そして、今まで研究生活を支えてくださった先生やラボメンバー、友人、家族への感謝の気持ちを忘れずに、今後一生をかけてお世話になったすべての方に恩返ししていく気持ちで研究に励んで行きたいと思います。最後に、RNA学会には、優秀な方々が大変多く、過去にお2人が受賞されています。今後も、新たな受賞者が生まれることを心から願っています。改めまして、私を推薦してくださったRNA 学会の皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。

ちなみに、今年の7月に富山で行われたRNA学会でいただいた副賞の1つ、株式会社能作の錫100%の富山県高岡市の伝統産業である「鋳物」には、大変感動いたしました。錫の特徴であるやわらかさを最大限に生かしたハイセンスなお品で、ひっぱったり曲げたりすることで、かご状に変形することができます。というわけで、さっそくワインをお洒落に立て掛けてみました。今後、ホームパーティなどで活躍しそうです。有難う御座いました。


写真1 育志賞の賞牌


写真2 授賞式にて


写真3 ラボの元先輩の李さんと@シンガポール


写真4  今年のRNA学会@富山でいただいた記念品

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