<走馬灯の逆廻しエッセイ> 9. 数兆円の経済効果ーーPCRの発見

古市 泰宏

ベンチャーからノーベル賞

PCR(Polymerase Chain Reaction)は、微量のRNAやDNAを増幅する技術であり、いまや遺伝子研究に無くてはならない技術だ。世界中の大学や研究所で使われ、産業面での応用も、医学、薬学、医療診断、考古学、犯罪捜査など途方もなく広く役に立っている。この技術は火葬の後の骨にのこる超微量のDNAからも、RNA やDNA配列を何億倍にも増幅して個人を特定できるほどにも鋭敏なので、世界中の大学のバイオ研究室や診断会社で使われていて、機器・試薬・消耗品を加算すれば、累積数兆円という巨額の経済効果をあげていると想定できる(図1)。


図1:PCR原理の概念図
二つのプライマーで場所が指定されたDNA断片が、DNAポリメラーゼとサーマルサイクラーの働きにより2の倍数で増える。サイクル回数20回で約百万倍のDNA断片を得ることができる。

こんな大きなインパクトを持つPCRだが、これまで紹介してきた発見が、大学や公共の研究所でなされたのに対して、サンフランシスコ郊外にあったシータスという小さな創薬ベンチャーの研究者チームによってなされたことを知る人は少ないであろう。しかも、カリー・マリス(Kary Mullis)というチーム内の一人の研究者が、ベンチャー企業からは初めて、1993年ノーベル賞(化学賞)を授賞されることになったこともトピックであった。

このチームは、トムホワイト(Tom White:図2)という優れたリーダーにより率いられ、社内の幾多の障害を乗り越え、1983年から1985年のわずか3年間で、PCR技術やサーマルサイクラー機器の原型を確立した。トムは、マリスという“やんちゃ”で“変わり種”研究者の突飛なアイデアを守り、会社が危機の中にあってもプロジェクトを絶やさず、チーム内外の協力をまとめながら、PCRを今日の姿へまとめあげた。そして、この技術の特許を1987年に米国特許庁から得るところまで、成功裡のうちに漕ぎつけることが出来たのである。この稿では、その間のエピソードを紹介したい。

「えっ、キャップ構造の先生が、どうしてPCR発見の内幕を知っているの?」――と、読者には不思議に思われるかもしれない。たしかに、筆者は、その時点、米国東海岸側に居たので、他の発見物語とは異なり、PCRの発見には直接かかわるべくもない。

しかし、縁とは不思議なもので、後年(1987年)ロシュ社は、シータス社からPCR特許を全て買い取ることになるのである。その結果、帰国してロシュ研究所(鎌倉)へ赴任し、ロシュR&D直轄の分子遺伝部研究室を開いて、創薬研究をはじめていた筆者は、否応もなく(――というか、この新技術に惹きつけられて――)PCRの宣伝に一役買うことになるのである。それと同時期に、PCR技術を完成させたトムや彼の同僚達は、ロシュにスカウトされ、新しくベイエリアに設立されたロシュの新会社(Roche Molecular System:以下RMSと略す)に雇われて、HIVなどウイルス感染診断技術などへの開発に携わることになる。トムは新会社RMSでは副社長であり、適任だった。そのようなことで、RMSの新研究所へ彼らを訪ね、仲良くなり、PCR発見について、技術を完成するまでに至るチームの、生生しい苦労話を聞くことになったからである。

PCR発見のエピソードについては、カリフォルニア大学(Berkeley校)の考古学の教授Paul Rabinow教授が、PCR研究に携わったシータス社の研究者・経営者をインタビューして「Making PCR」という単行本をThe University Press 社(Chicago, London)から1996年に発刊している。後日、筆者はその本を購入して(定価$22.50) 読んでみたが、RMSの友人たちが言っていることに間違いがないことが判った。ただ、この本を読んでみて、考古学の先生よりも、バイオの創薬研究ややベンチャーに詳しい筆者の方が、的確に「PCRの発見」に関わるエピソードの紹介には適しているという感想をもった。


図2:トムWhite(1992年)
ロシュシンポジューム(後述)で来日の折のプロフィール。

トムとマリスの出会い

前稿のマリリンコザックと同様、トムも海外青年協力隊の隊員として西アフリカで3年間、子供たちに算数などを教えていた。帰国して、1971年からヴィスコンシン大で分子遺伝で学位を取り、1978年からシータスにリクルートされた。シータス社は、ビタミンB12の生産会社としての経済基盤があったが、遺伝子工学の技術を使い、インターフェロンやIL2などの医薬品化を目指し、バイオ医薬の方面にビジネスを展開しようとしていた。トムは、1981年からはDNA組み換え・生物部の責任者となり、組み換えタンパクの医薬品化についてシータス社の研究と臨床開発(R&D)の一部を託されている。シータス社は、ジェネンテクやビオジェンより先に立ち上がったバイオのベンチャーであり、基礎から応用への旗印を掲げる、希望のバイオベンチャーである。ちなみに、シータス(Cetus)は“くじら座”を意味し、怪獣も意味する。

さてそのシータスだが、DNA合成ができる人材が必要になってきた。仕事の内容は、主には、DNA合成機を使ってオリゴヌクレオチドを合成して、それを各研究室へ供給し、オリゴをハイブリダイズ実験のプローブや、遺伝子DNAの塩基配列を解読するためのプライマーとして役立てる役割である。そこで、人材募集をしたところ、一人の応募者が現れた。カリーマリスである。引見してみると、マリスは過去にいろんな職種(レストランやコーヒーショップなど)を経験してきてはいるが、本格的にDNA合成や核酸の化学を勉強した様子はない。博士号は「微生物における鉄のトランスポート」で受けているが、それに関して論文発表はない。ただ、――全く違う分野のことなのであるが――、宇宙に関する論文を、Nature誌に単名で発表しているという。トムは「ハテ、これはどのような論文なのか」といぶかしんだ挙句、サンフランシスコ大の宇宙物理の教授を訪ね、論文を見てもらったところ「これはチャントとした論文である」というお墨付きをもらい、多少不安はあったものの、彼を雇い入れ、1981年からはDNA合成室の室長に据えた。マリスは、1982年から1983年にかけて無事にDNA合成の役割を果たしていたが、次第に周囲の研究室と折り合いが悪くなり、トムが間に入って仲裁を果さねばならなくなったようである。マリス自身、命じられるままにDNAを合成することに飽いてきたこともあって「DNAオリゴを早く、たくさん作る別の方法はないものか」と考えるようになっていった。

アイデアの誕生と初期の数々の失敗

そんな中、「1983年の9月のある金曜日、愛車のホンダ・シビックでドライブしている時、図1に近いアイデアが生まれた」とマリスは言う。このコメントは、1991年(ノーベル賞受賞の2年前)日本のウイルス肝炎研究財団が、結成10周年を期した記念講演会へマリスを招き、東京パレスホテルで講演してもらった時の第一声だった。筆者も、出席していたが、彼が講演で使った(女性ヌードを含む派手な色彩の)スライドに目を奪われて、すっかり忘れていたところを、(現)財団理事の三代俊治博士に思いださせて頂いた。講演の後、懇親会でマリスと話す機会があったが、――噂にたがわぬ――、“変わった人”であることを確認することとなった。とても懐かしい思い出である(図3)。


図3:1991年(ノーベル賞受賞の2年前)来日したMullis博士
「ウイルス肝炎研究財団10周年記念講演報告集(1991年8月):肝炎ウイルス研究の進歩(R.H. Purcell) & PCR法の発見(K.B. Mullis)」から、三代俊治博士のご厚意により掲載

マリスのアイデアは良かったが、彼自身は、口ばかりで、実験データで示すことが出来なかった。まだ、耐熱性のポリメラーゼが発見されてない時代であるから、DNAポリメラーゼKlenowフラグメントをサイクルごとに、熱が冷めてから、タイミングよく加えなければならない(図1参照)。サイクルは十数回も繰り返し、加熱と冷却を手作業で、――繰り返すのであるから、大変だ。マリスの実験は、ポリメラーゼやヌクレオチドを入れ忘れたり、凡ミスが多かったようである。1983年秋に一度だけ成功したという(本人の主張)。しかし、これもゲル電気泳動でコントロールを入れ忘れ、外へ出せるデータにはならなかった。

助っ人、ランディSaikiの登場 

とかく、研究室では、アイデアが良くてもデータが伴わなければ、自然消滅してしまうのが常である。1984年のRetreat (泊まり込み社内発表会)では、マリスは議論の末に(――実験データを皆に批判されて――)暴れて、ホテルの警備員に連れ出されるという一幕もあった。この会で、アドバイザーのJoshua Lederberg (ロックフェラー大教授:遺伝学の大御所)だけは、PCRを激励したという。この辺のところは、利根川さんの初期のデータをJames Watsonが高く評価したということ、とよく似ている。さてそのPCRのアイデアであるが、――コロンブスの卵の話に似たところがあって――、当時のDNAやRNA関係者であれば、誰もが、ぼんやりではあるが、考えていたアイデアでもあった。しかし、ここで重要なのは、実際にやってみせて成功データをひきだすことであったろう。そこで、トムは日系人テクニシャンのランディSaiki (Randy Saiki)を、他のグループから引き抜いて、起用する。ランディはPh.Dではないが、サイエンスがわかる。細心の注意を払って実験を行う、いわゆる、――“手が切れる”人のようだ。トムから聞くランディは、寛容で、会社の方針を尊重し、トムの気持ちを汲んで、前人未到の実験に果敢に挑戦した。そして、彼は、ついにPCRを最初に実現して見せるのである。言うまでもないが、――PCR実験をするというような簡単なことではない――、そもそも、PCRという技術が可能かどうかを探る研究をやっていたのであり、――ここには、現在、日常的に使っているPCR酵素(耐熱性ポリメラーゼ)やサーマルサイクラー機器はない。後年、親しくなったトムから、このあたりの苦労の日々を、細部にわたり聞き取っていた時、ランディSaiki(佐伯だろうかーー)の話が出て来た時には、嬉しくて思わず目が潤んでしまった。日系人のランディがそこにいなかったら、PCRの発見はもっと遅れたであろうことが、当時、外国人を含む研究チームを率いていた筆者には、よくわかったからである。もう一つ、筆者は、不思議と、トムとは、出会ってからすぐに胸襟を開いて話せる友人になった。今にして思うと、トムはランディへの信頼を、そのまま日本人の私にぶつけて話し、その波長がピッタリ合ったのかもしれない。

 

最初のScience論文と特許など65-69

さて話をもう一度シータスの実験室へ戻すが、1984年秋、トムは、ランディの協力を得て、仮説だったマリスのアイデアを実験で実証することができた。そして、そのデータにより最初の論文がScience 誌に発表された65。また、シータス社としては、最初の特許を米国特許庁へ申請するのである(1985年3月)。Science論文は、マリスは筆頭著者ではない。ランディSaikiが筆頭著者である。皮肉なことに、この論文に先駆けて、マリスはPCRに関する概念論文をNature誌に投稿しているが、こちらはRejectされてしまい、陽の目を見ることはなかった。

一方、PCR技術の“肝”でもある耐熱性ポリメラーゼは、マリスの提言により、イエローストーン国立公園の火山性熱泉にすむ微生物から単離し、またPCRの自動化へ向けたサーマルサイクラー機器の開発も、パーキンエルマー社と製造を始めることになり、プロジェクトは順調に進んだ。そんななか、マリスは、1986年9月に、1万ドルの社内特許報奨金をもらって退社している。それは、彼の周囲の同僚から見れば、“やんちゃなマリス”の体(てい)の良いクビ切ともとれる退社であった。マリスの退社は、彼と会社の合意によるものであったが、彼はトムを恨んでいたそうである。その後、マリスはあちこちのバイオベンチャーへ就職するが、次々と、早期に辞めている――どうも周囲とうまくゆかないひとなのである。

しかしながら、そのうち、世界は、ついにPCR技術の凄さを知り、その利用は基礎研究へ広がり、1987年にはロシュがこの技術をウイルス診断用に高額で購入するに及んで、マリスの運の潮目は変わる。マリスは、PCR概念の発案者として、世界各地から招待講演の声がかかり忙しくなった。そして、ノーベル賞受賞へとつながるのである。その一環が先に触れた1991年の来日であったかもしれない。当時、まだ無名であったマリスの来日を、肝炎財団へ強く推薦したのは、三代先生と筆者だったような気がしている。

ノーベル賞

トムからPCR発見の苦労話を聞いてから3年後、ノーベル委員会は最初にPCR原理についてアイデアを提案したマリスに「DNA化学での手法開発への貢献」を理由にPCR発明の概念クレジットを認め、――1993年度ノーベル化学賞を与えている。

筆者は、もしPCRの発見が大学の研究室で行われたならば、「師と弟子」の関係から、あるいは研究の継続性から、ノーベル賞はトムへ与えられたのではないかと思う。実際、PCRがどのようにして発見・開発されていったかをフォローしてゆくと、筆者は、功労者はトムとランディとマリスであり、――今にして、PCRの広範な用途とインパクトを考えれば、この3人に賞を与えても良かったのではないかと思うのである。ただ、マリスは「これは俺の発見だ」と強弁するであろうから、また別の問題が生じたかもしれない。PCRに関するノーベル賞はマリスのほか、もう一人、カナダのブリティシュ・コロンビア大の化学者マイケル・スミス博士(Michael Smith;コラーナ研のポスドクだったということである)へも与えられた。

PCRの特許はコラーナ研究室のポスドクのノートブックに、PCR原理に近い記載があり、これを担いだ某大手企業と、小さなシータスは特許係争をやっていたところであり、――退社して「俺がやった」と喧伝するマリスにくらべ、社内問題が及ぼす特許係争への悪影響を避けて、PCR特許に関連して特許発明人になっている社員達($1の特許報奨金で我慢した)や経営者は、声を秘そめて、静かにしていた気配がある。結局、特許係争はシータスの勝ちだった。そして、以下は、筆者の邪推であるが、「コラーナ研のノートブック」とは、もしや、もう一人の受賞者マイケル・スミスのものだったのではないかと思うのである。

<脱線>

そのころ、筆者は、10年間にわたる米国でのmRNAやキャップに関する研究を切り上げて帰国し、鎌倉の日本ロシュ研究所(現中外製薬研究所)で新しい部(分子遺伝部)を立ち上げ、創薬研究へ乗り出そうとしているところであった。キャップの研究を切り上げて帰国した理由は、嫌気がさしたわけではない。キャップは大事なところはやってしまったので「この後は、アーロンや、ナフムや、マリリンに任せておけばよい」という気持であり、何か新しい挑戦的な研究をやりたいという気持ちになっていた。家庭的には、日本に残している母の老齢化や、4人になった子供たちの行く末を心配したことがある。またもう一つは、スイスとアメリカのロシュのトップ達から、「日本のロシュ研究所へ行き、ロシュ研究所間の国際連携をスムースにして欲しい」という大きなミッションを預けられたということがあった。そのように頼まれると受けてみたくなる性分である。希望する研究施設を鎌倉に作ってくれることや、米国のラボにいるポスドク2名(オーストラリア人とスペイン人:二人は恋仲だったので都合が良かった)とPh.D学生(カナダ人)を1名連れて日本へ帰国しても良いとのことなども含め、すべての希望が認められていて断る理由もなくなっていたこともあった。さて、では鎌倉で何をするかであるが、正体不明のNonA/NonB肝炎ウイルスの正体を突き止めようというテーマ以外には思いつくものはなかったが、鎌倉で作る新チームに合わせて考えようという気持であった。

$200MでPCRの権利を買おうと思うが、どうだろう?

1987年、筆者のボスで、ロシュの研究の最高責任者であるユルゲン・ドレーブス(Jurgen Drews:図4)が鎌倉へやって来て、筆者に、上記の驚きの質問をした。ドレーブスが最も信頼するサイエンス顧問はチャールスWeissmann(長田重一さん、谷口維紹さんの師匠でもある)であり、とっくにチャールスとは話をしてきたはずである。チャールスはまた、オチョア先生の弟子でもあり、筆者とも近かったので、「日本へいったらDr.Furuichiに聞いてみたら」と言ったのに違いない。私は、大賛成だったが、すでに多くの研究室で使われ始めているPCR技術を買うとは、どういうことか、ハッキリしなかったので「いくらで、何の目的で買うのですか?」と逆に聞き返した。彼の答えは「診断分野への利用で、$200M(当時200億円ほどか)で、提案しようと思うのだが、どうかな?」、「基礎研究の利用者からは金をとらないつもりだ」――だった。


図4:ユルゲンドレーブス
1989年ロシュ・シンポジュームの折のプロフィール。

HIV(エイズ症)やHCV(肝炎)などウイルス感染について、「RNA診断」に定量性があるかどうかについて、まったく未知だったので、PCRは冒険だった。当時の診断は、抗体を用いるELISAなどが全てであり、ウイルスRNAを定量して感染症を評価するなどという考えはなかったのである。しかし現在、誰もが「定量的PCR」をやっている現在、ドレーブスの決断は正しかったと思わざるを得ない。度胸のある、先が読める、素晴らしいマネージャーだった。実際、1988年、PCRは$200Mドルでロシュに引き取られた(一説には、追加で$100Mが入り、合計$300Mだったという話もあり、――この後シータスは、カイロン社へ吸収される)。ドレーブスはPCRと共に、旧シータスのトムの仲間を引きとり(1988年)、RNA診断の新しいジャンルを開かせることに成功する。当然ながら、高い買い物の、元はとったことには違いない。脱線になるが、ドレーブスは、これに自信をつけ、この数年後、米国の大型ベンチャーを、PCRとは桁違いの金額で買収しているが、これも今にして思うと、大成功だった。

ロシュ・シンポジューム (1989 & 1992):Influence of Molecular Biology on Drug Discovery

また別の日、ドレーブスは、筆者に言った。「これからの製薬会社は、これまでと違い、アカデミアと密接な関係を築き、新しい発明や発見を基盤に「新薬の発見」を進めなければならない」。「ついては、日本で、ロシュの名をつけた国際シンポジュームを2~3年に一度開かないか? 本も出そう。経費は、全て、私につけなさい」――というのである。豪気なことではあるが――彼にとっては少額で、なんてことはない。筆者は、創薬部門(エンドセリン受容体の研究)とビタミン部門(ビタミンCのバイオによる製造)の責任者として結構忙しかったが、世界の最先端科学者を集めてのシンポジューム開催の魅力は大きく、ドレーブスの希望を(――というか命令を)受けることにした。その結果、アーロンやチャールスやユーデンフレンドなど、このエッセイシリーズの前半で登場したRIMBの友人達の協力を得て、1989年と1992年、鎌倉と東京でそれぞれ2回、公開のシンポジュームを開いて、日本の第一線の科学者、世界の最先端研究者の話を聞き、親しく交流することができた。

この稿の主役のトムWhiteは勿論のこと招待し、ウイルスの検出や診断についてトピックスを話してもらった。マリスにはーー、すでに彼の出番ではなくなっていたので、声はかけなかった。シンポジュームへの日本側のスピーカーは、(敬称略)早石修、沼正作、花房秀三郎、吉田光昭、本庄佑、中村祐輔、上代淑人、新井賢一、御子柴克彦。米国からは、トニーHunter、アーロンShatkin、テオFriedmann、ボブBlaese、インダーVerma、リッチMulligan、ルドルフJaenisch、ボブRoader、ボブWeinberg、トムCurran、アンSkalka、マリオCappeki、マイクRossmann、ロンEvance、ジェフFreedman、デビッドGoeddel、マイクGrase。 欧州からはチャールスWeissmann、フリッツMelchers、ウオルターFiers、ピエールChambon、マイケルSteinmetz、クリスチーナChomienn、など当時のサイエンスを牽引する豪華メンバーだった。これらの方々をすべて、オフィスあるいは実験室へ訪ね、シンポジュームの趣旨を話し、講演を依頼し、了承してもらった。

鬼籍に入られた人もいるが、みな懐かしい方々である。シンポジュームは無料で、若手研究者Audienceの参加も多く、世界のトップ科学者を集めたということで、伝説的なシンポジュームとなり、大成功だった。講演録も、後日、「Impact of Molecular Biology on Drug Discovery」、「Frontiers in Biomedical Research」というタイトルの2冊を、筆者とドレーブス編で、ドイツの出版社から出版し、世界へ配布した。このシンポジュームは、また、製薬企業研究トップのドレーブスと診断研究のトムにとって、世界の基礎研究領域の有名サイエンティストと一挙に近づきになれたのは良いことだった。勿論、PCR技術の宣伝・普及に大いに役立ったことに間違いない。

一人の天才の発見・発明からの期待

一人の天才(マリス)の考えを、(トムやランディなどが)大事につなぎ育て、(ドレーブスのように)企業ビジネスへ組み上げて、新しい診断分野を開拓し、世界展開して、広く役立つシステムにした良い例を、PCR物語の中に見ることができた。このような成功談を、RNA研究から今一度――今度は日本から――出したいものであり、読者に期待している。

筆者は、2009~2014年、文部科学省の地域活性化プロジェクトである「ほくりく健康創造クラスター」の事業総括として、富山石川地区の6大学から選んだ12研究プロジェクトを支援して、「大学の発明」を「地域産業へ結び」、学術的な発見・発明の振興と、地域経済の活性化をはかるという活動を5年間続ける体験をさせて頂いた。その折、ここに述べたPCRの発見は、いつも筆者の胸中にあった。北陸での12のプロジェクトのいくつかは、現在、グローバル化へ向けて着実に進んでいる。ただ、「PCRの発見」ほどにはインパクトが大きくないところは残念である。しかしながら、時間のかかるプロジェクトであり、筆者の眼の黒いうちに何とかならないものかと、期待して待っているところである。

<了>

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