受賞によせて

投稿者 佐藤 豊(名古屋大学大学院生命農学研究科)

本年2月に第11回日本学術振興会賞をいただきました。これまで様々な方々に支えられて行ってきた研究をこのような形で評価していただいたこと、とても嬉しく思います。一緒に仕事を進めてきた大学院生や共同研究者の方々にはこの場で再度感謝の気持ちを記しておきたいと思います。

さて、RNA学会の会報向けの記事との依頼でしたので、自己紹介がてら私とRNA研究との関わりを書かせていただきます。私は学生時代からイネを材料にして、分子遺伝学的な手法で発生の仕組みを明らかにする研究に取り組んできました。「なぜイネを材料に?」と思われる方もいるかもしれませんが、日本においてはイネ研究の歴史は古く、これまでに多くの変異体が蓄積していることは大きなメリットです。また、ゲノム情報をはじめ多くの研究リソースも私が大学院生だった頃から徐々に整備されてきました。そんな状況でかれこれ20年近くもイネを主な研究材料にしています。

話が逸れましたが、イネの胚形成に関わる一連の変異体を解析していたところ、DICERやAGOがイネの胚形成に必須であることがわかりました。当時、RNA干渉に関わる因子の作用機序が次々と明らかにされていた時代、名古屋大学にわざわざ来ていただいた田原浩昭先生のセミナーを拝聴し、感銘を受けてセミナー後に少しお話しさせていただいたのが初めてのRNA研究者との関わりだったかもしれません。その後、当時の特定領域研究「RNA情報網」の公募に採択された時は、RNA研究者の仲間入りをさせていただいた気がしたのを覚えています。イネの胚形成におけるDICERやAGOの機能については、農業生物資源研究所の吉川学先生らのシロイヌナズナを用いた研究成果が参考になり、胚形成初期の細胞分化に働く小分子RNAと転写因子を明らかにすることができました。

私とRNA研究(者)との関わりで、大きな転機となったのは、JSTさきがけ「RNAと生体機能」のメンバーになってからです。このグループのメンバーおよびアドバイザーの先生はまさにバリバリのRNA研究者で、彼らの研究やその歴史を目の当たりにし、大きな刺激になりましたし、よい研究仲間ができました。さきがけでは、イネゲノム中のあるトランスポゾンが作り出す小分子RNA (miRNA)が宿主のサイレンシングを抑制することにより自身の活性化に働く機構を明らかにすることができました。論文の出版には大分苦労したのですが、うまくいかなかった時でも、さきがけ総括の野本明男先生には気持ちが前向きになる応援をいつもいただきました。昨年亡くなられた野本先生に、今回の受賞を直接報告することができなかったことが心残りでなりません。

さきがけも終了し、RNA研究者と疎遠になってしまうことを危惧していたのですが、ひょんなことから交流は続きました。2013年からこの7月まで、文部科学省の学術調査官として新学術領域研究の運営をお手伝いさせていただきました。もともと、コミュニティーサービスは嫌いではなかったし、なにより、RNA研究者による3つの新学術領域研究(稲田利文先生の「RNA制御学」、泊幸秀先生の「非コードRNA」、廣瀬哲郎先生の「RNAタクソノミ」)のお手伝いができたことは、実は幽霊会員気味であまりRNA学会年会にも顔を出していなかった私にはラッキーでした。

私自身は植物科学の分野が自分の研究活動の母体になっているのですが、RNA研究者と交流するようになり10年ちょっとになります。この間、特定領域研究の末席から、さきがけ研究者として、また学術調査官としてこの分野と関わりを持つことができました。アクティブなRNA研究者との交流はいつも刺激的で研究のモチベーションを高めてくれました。今後は、私からもRNAコミュニテーィーに積極的に情報発信できるような研究を目指そうと心を新たにしているところです。最後に、北畠真先生から随分前にこの原稿依頼を戴きながらなかなか提出できなかったことと、これまでRNA学会年会をさぼり気味だったことを十分反省して筆を置かせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


写真:イネの交配を行う筆者

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