女性研究者エッセイ(2) 六倍体柿をモデルとした「植物の揺らぐ性別」の進化に魅せられて

投稿者 増田佳苗 (UCDavis Genome Center)

UCDavis Genome Centerにてポスドクをしている増田佳苗です。現在、学振CPDの制度を利用させていただき、東京大学農学生命科学研究科に所属すると共に、Visiting ResearcherとしてアメリカUCDavisにて研究を行っています。今回は、博士課程時代のテーマである「六倍体柿の柔軟な性決定システム」についてご紹介します。皆さん、一度は食べたことがあると思うのですがオレンジ色の甘い果物です。少し地味なイメージがある柿ですが、その花は白く、意外と可愛い形をしています。

「性別」は生物の多様性を維持するのに重要な仕組みです。動物における性の概念と比較して、植物の性はとても多様です。動物では一般的に個体別の性別を持ちますが、植物の「性」は個体としてのオス・メスだけでなく、雄花、雌花、そして両者が共存した「両性花」などの状態を揺らがせて、多様な花の性別を表現しながら進化してきました。植物の花の基本は両性花であり、約75%の植物が両性花です。両性花は被子植物の祖先であると考えられています。その中で、約5%の植物が雄個体と雌個体に分かれる「画一的な性別」を成立させてきました。その際には、雌雄混株性(一個体に雄花と雌花の両者を着花する)を含む中間的な性を経由して、「性の成立」が起こります。さらに、植物では性が成立した後にも関わらず、雌雄混株性や両性花などの祖先状態に戻ってしまう「性の逸脱」が起こります。この性の成立と逸脱は何度も繰り返し行われていますref1。私が興味を持ったのはこの「植物の揺らぐ性別」の仕組みです。私たち人間を含む動物のシステムでは考えられない進化の仕組みであるため、植物が秘める未知の可能性とその多様性に魅了されました。当時、世界的には、「性の成立」に関わる性決定因子の特定が精力的に進められていました。柿ではすでに性決定因子が見つかっていたため、植物における性の進化の仕組みを明らかにしたい想いとともに、柿をモデルとした「植物の揺らぐ性別」の仕組みの解明を目指しました。 

植物の中でも、柿は面白い性決定システムを持っています。二倍体の野生種では、両性花から画一的な性別を成立させており、性決定因子OGIとMeGIがすでに同定されていますref2。二倍体の野生種では、OGIを含むY染色体を持つ雄個体からは雄花のみが派生します。一方で、私たちが食べている柿は六倍体であり、Y染色体を持つ本来の雄個体では雌雄混株性や雄花から両性花への「性の逸脱」が起こっていますref3, ref4。その中でも、特に注目した現象は、両性花への先祖返りです。六倍体の柿では、本来は雄花になる予定の花から、二つのタイプの両性花が派生します。自然条件下で派生する「自然両性花」と人工的に細胞分裂を誘発するサイトカイニン処理によって派生する「人工両性花」です。この現象は六倍体のみで確認されています。これより、この両性花への先祖返りには、倍数体特異的な仕組みが関与している可能性が考えられました。 

従来の説では、両性花への先祖返りには、既存の性決定因子の変異や組み換えが関わることが知られています。一方で、六倍体の柿では、既存の性決定因子OGIとMeGIとは全く異なる遺伝子が関わっており、単なる「先祖返り」ではなく「新しい性別表現の構築」によって両性花性への変化が起こるという新しい説を導くことができましたref5。ここでは、100以上のトランスクリプトームデータを利用して、柿の花における詳細な遺伝子共発現ネットワーク解析を行い、両性花への変化を促す働きを持つsmall-MYBタイプの転写因子RADIALISを発見しました。このRADIALIS遺伝子は、六倍体特異的にサイトカイニンやアブシジン酸といった植物ホルモンのシグナルに対する応答性を獲得するとともに、雄花において雌蕊を形成して両性花へと変化させる働きがありました。面白いことに、二倍体ではRADIALISの発現応答性はなく、倍数体特異的な仕組みを獲得していると考えられました。しかし、他の植物で発見されているRADIALIS遺伝子の機能としては花弁の形態多様性に関わる遺伝子であり、当時、RADIALISが両性花への変化に関わる遺伝子であるかは半信半疑でした。そこで、六倍体柿におけるRADIALISの機能を確認するため、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた形質転換実験を行い、雌蕊が退化した組み換え体において雌蕊の成長が回復し、両性花へと変化することを観察できました。以上より、六倍体柿における両性花への先祖返りでは、従来の定説であった性決定因子の変異が原因ではなく、独自に環境応答性を獲得した中で、鍵因子RADIALISの発現応答性という新規機能の獲得によって両性花性が再構築されていることを明らかにしました。

この新しい説を提案するにあたって、実験データと真摯に向き合うことで、予想とは異なる結果が導かれていく時の喜びはとても大きいものでした。鍵因子を特定した際には、共同研究先のUCDavis Comai教授との研究ディスカッションにて、ふとした質問から大きな進展を生み出すことができました。当時、英語には自信がなかったのですが、勇気を振り絞り、研究内容を伝え、ディスカッションの機会を活かすことができて、本当に良かったと思います。また、英語での意思疎通が困難な私にお付き合い下さったComai教授、ならびに、いつも的確なアドバイスを下さった指導教員の赤木教授にはとても感謝しております。

また、私はこの「植物の揺らぐ性別」の研究をやってみたいという想いをもとに、赤木教授の大学移動に伴って、博士課程進学時に京都大学から岡山大学へと編入学した珍しい経歴の持ち主かもしれません。当時は迷いましたし、新しい場所への不安もありました。常に不安があった博士課程時代でしたが、様々な研究者の方との繋がりを通して、常に新しいことへ挑戦する気持ちを持ち続けることができたと感じています。現在は、アメリカでの研究生活で、一から科学を構築することを頑張っています。自分ができないことから目を背けず、何度でもトライしていきたいですし、皆さんへの力添えができるよう、たくさん勉強して、研究して、科学を進展させられる力になりたいと思っています。是非とも皆さんと一緒に頑張っていければと思っていますので、またどこかでお会いする機会があれば、是非ともお声掛けいただければ幸いです。 

最後に、このようなエッセイ寄稿の機会をくださった小宮先生、また、この文章を最後まで読んでいただいた読者の皆様、本当にありがとうございました。

 

Reference

1. 被子植物における性の成立と進化:性の多様性を駆動する「植物らしさ」とは? 増田佳苗・赤木剛士(2021) 化学と生物 59: 23-29.

2. A Y-chromosome–encoded small RNA acts as a sex determinant in persimmons. Akagi et al. (2014) Science 346: 646-650.

3: Epigenetic flexibility underlies somaclonal sex conversions in hexaploid persimmon. Masuda et al. (2019) Plant Cell Phys 61: 393-402.

4: Genome-wide study on the polysomic genetic factors conferring plasticity of flower sexuality in hexaploid persimmon. Masuda et al. (2020) DNA Research 3: dsaa012.

5: Reinvention of hermaphroditism via activation of a RADIALIS-like gene in hexaploid persimmon. Masuda et al. (2022) Nature Plants  8: 217-224.

このカテゴリをもっと見る ありがとうRNA学会 »
入会手続きはお済みですか?: 入会申込み

ログイン: