2月、3月(きさらぎ、やよい)というのは人が去っていく寂しい季節です。一方、去りゆく人にとっては旅立ちのときであり、新しいことに挑戦するために、勢いをつけて、スプリングボードに飛び込む緊張の時期であることも多い。この時期、次のステージに踏み出そうとしている若者に含蓄のあるカッコいい言葉を一つ二つ贈りたいという誘惑に駆られる。
『卒業(The Graduate)』(1967年の作品)という私の世代では有名な映画がある。大学の卒業時にダスティン・ホフマンが老教授に呼び出され、将来のための助言を受ける。老教授は一言「Young man, be plastic!」と言う。カッコいい。私はこの場面を何十年もの間このように記憶していた。つい数日前、念の為にYouTubeで確認したところ、全く違っていた。人の記憶とは不思議なものです。ホフマンはマクガイアとかいうおじさんに呼び出され、成功の秘密を聞かされる。このおじさんが言ったのは「I just want to say one word to you, just one word. Plastics!」 だった。Be plasticではなく、なんと、plastics、つまり、「これからは(物質材料としての)プラスティックの時代がくるぜ、青年よ」と熱く語っている訳です。現実的ですね、こうゆうのをAmerican pragmatismというのか。「お前だけに言う、誰にも言うなよ、A社の株がもうすぐ急騰する、預金全額おろしてすぐに買え」っていうインサイダー情報のようなものですね。さて、私が若者に伝えることができるインサイダー情報はあるのか?2016年の今、50年前の”plastics”に相当するものはなんだろう?若者へ贈る言葉としてはどちらが良いのでしょうか?時代の先を見通す極めて具体的な助言か、それとも漠然とした教訓めいた助言か?
今年朝日賞を受賞された渡辺嘉典さん(東大分生研)が次のように言っておられます。「突き進めばいつかは光が見えてくる。より光に近い方向を探る嗅覚は、思いっきり考えることでしか磨かれない」(朝日新聞2016年1月1日朝刊)。これはとても具体的な助言です。全くそのとおり。どの業界でも結局長く活躍する人は頭のいい人ではなく、手を抜かずいつも考えている忍耐力のある人です。野村克也さんが最近次のように語っている。「野球は技術力には限界がある。その先は頭で考えるしかない。そこから先がプロの世界なんだよ。技術の先には頭脳と感性が必要なんだよ。でも清原は若いときに教育されていないから考えないし感じない。人間の最大の悪は鈍感であると言うが、まさにそのとおりだよ。(中略)彼はやはり天才だからこうなったと思うんだよ。苦しまない、考えない、センスだけでやってきた」(週刊朝日 2016年2月19日号)。
写真の石はまだアメリカに住んでいた頃、休暇でCancunに行った時、浜辺で拾ったものです。珊瑚の化石。この石を見た人の中には、「そんな大きな石をメキシコからアメリカによく持って帰れたものですね。しかも、それをさらに日本まで。出入国検査で見つかったりしないの?」と言う人がいます。もちろん、空港の検査員に見つかります。さて、ここからが私が若者に伝えることができる、おそらく、唯一の“インサイダー情報”です。「これは何だ?」と検査員に問われたら、「Souvenir stone ----------(と言って、後はただ検査員を見つめてにっこり笑う)」
(2016年2月)
But, you may well ask, isn’t the cutting edge a place only for geniuses? No, fortunately. Work accomplished on the frontier defines genius, not just getting there. In fact, both accomplishments along the frontier and the final eureka moment are achieved more by entrepreneurship and hard work than by native intelligence. This is so much the case that in most fields most of the time, extreme brightness may be a detriment. It has occurred to me, after meeting so many successful researchers in so many disciplines, that the ideal scientist is smart only to an intermediate degree: bright enough to see what can be done but not so bright as to become bored doing it.
Edward O. Wilson
LETTERS to a YOUNG SCIENTIST