2024.7.15 〜 7.29第25回日本RNA学会年会「発表演題のアーカイブ」を現在公開中です(要ログイン)。
ノーベル賞受賞者であるカタリン・カリコ博士による特別講演 (S-01) もご視聴いただけます。)

理化学研究所岩崎RNAシステム生化学研究室の脇川大誠と申します。セントラルドグマの重要なステップである「翻訳」、特にミトコンドリア翻訳の制御メカニズムについて興味を持っています。大変光栄なことに、昨年度の第24回日本RNA学会年会にて青葉賞をいただきました。その副賞である海外渡航支援を活用させていただき、この度EMBO Workshop Molecular biology of mitochondrial gene maintenance and expressionに参加してまいりましたので、そのご報告をさせていただきます。


学会は、ポーランドのユジェフフで5月19-23日の5日間開催され、初めてのポーランド滞在を楽しみつつ、非常に充実した時間を過ごさせていただきました。滞在した5日間は幸い天候にも恵まれ、カラッとしたそよ風が心地よい非常に過ごしやすい気候でした。学会会場のホテルを出ると綿毛が舞っており、幻想的だったことが印象に残っています。
一方で、個人的には花粉症にかなり苦しめられ、ハンカチを手放せない日が続きました。旅先で花粉に苦しむなど露程も考えておらず、もちろん薬など持参していなかった私ですが、幸いにも学会で知り合った親切な研究者の方にアンチヒスタミンを分けていただき、事なきを得ました。ポーランドでは春先から初夏にかけて白樺、ポプラ、雑草などを原因に花粉症が多発するそうです。もしアレルギーをお持ちの方でポーランドに行かれる場合は、お気をつけください。
体調面ではほろ苦い経験をしましたが、学会中に行われたエクスカーションは、とても楽しむことができました。ユジェフフは首都のワルシャワから近いということもあり、エクスカーションではワルシャワ旧市街を回遊しました。戦争での破壊と再建、またショパンにまつわる話などワルシャワの魅力をガイドの方に説明していただきながら、美しい街々を散策し、好奇心がそそられる貴重な体験となりました。特に心惹かれたのが建築物の鮮やかさです。街中にカラフルな建物が並び、青空が背景となって非常に美しかったです。写真で少しでもその感動をお裾分けできたら幸いです。たくさんの魅力が詰まった街でしたので、ぜひ機会があれば訪れてみてください。


 

写真1 エクスカーションにて訪れたワルシャワ市街(その1)

 

写真2 エクスカーションにて訪れたワルシャワ市街(その2)

 

ここからはサイエンスの話をしたいと思います。今回参加したEMBO Workshop Molecular biology of mitochondrial gene maintenance and expressionは、その名の通り、ミトコンドリアゲノムにコードされる遺伝子の発現制御をテーマとした学会です。mtDNAの複製・ゲノム編集のセッションを皮切りに、転写、翻訳、生理機能に至るまで、計5日間にわたってミトコンドリア遺伝子発現の最新の研究発表が続くという、分野が少し離れた人から見れば非常にマニアックな学会であったと思います。しかし、ミトコンドリア翻訳が興味の中心にある私にとっては、まさに天国のような学会でした。RNA学会など広く分野をカバーした学会では、自らの研究フォーカスから少し離れた面白い研究・研究者と出会えることができ、それは学会の一つの魅力であると思います。一方で、このような興味の近い研究者が世界中から集まる学会では、また違った魅力があると感じました。オンタイムでディープなディスカッションができ、非常に刺激的で楽しい、しかしいい意味で非常に疲れる5日間でした。
今回このEMBO workshopを選んだのは、一つは研究テーマとのフィット性ですが、もう一つは分野の研究者達と会うことが目的でした。私たちの研究室ではシークエンス技術、特にリボソームプロファイリングを軸に、翻訳の制御メカニズムについて幅広く研究を進めています。そのうちの一つとして、最近ミトコンドリア翻訳にも力を入れ、私がそのテーマを担当しています。しかし、フォーカスをし始めてからまだまだ日は浅く、領域の中では新参者という立場です。長年分野を牽引してきた研究者たちに、「say hello」しようと、ボスの岩崎さんと意気込んで参加した学会でした。
そういった意味でこの学会は、私たちにとって非常に有意義なものになりました。今回の学会では、博士課程中にメインで行ってきた2つの研究テーマ(重力によるミトコンドリア翻訳制御機構、ミトコンドリア翻訳に特化したリボソームプロファイリングの開発)を、それぞれ私がポスターで、岩崎さんがトークで発表を行いました。これらの仕事は既にpre-printとしてBioRxivに掲載しているのですが、そのpre-printを読んでくれた方々がたくさんいて、予想もしていなかったポジティブなフィードバックをいただくことができました。実際、「ジャーナルクラブでpre-printを取りあげてラボのみんなで読み込んだよ」と声をかけて下さる方が複数名おり、トークやパネルディスカッションの中でも私たちのpre-printをcitationする形で紹介していただきました。分野として歓迎してもらえていることをひしひしと実感し、岩崎さんと2人で感動したことが強く印象に残っています。
「論文掲載前の仕事をpre-printとして積極的に掲載するべきか?」、ということは、個人の意見が分かれる点だと思います。スクープされるリスクもありますし、ネガティブな要素があることも確かです。一方で、最新の仕事をタイムリーに発表していくことで、評価してくれる研究者がいる、分野への貢献につながる、ということを今回改めて実感しました。昨今では査読のプロセスが長期化し、アクセプトまでに一年以上かかることも珍しくなくなってきているかと思います。すなわち、学術誌に掲載された論文は、一年以上も前の仕事であり、今まさにやっていることとは遠くかけ離れているということもあります。こういった背景の中で、どのように振舞っていくべきなのか、どこまでオープンサイエンスとするべきなのか、と考えさせられるいい機会となりました。難しく、明確な答えのない問いですが、アカデミアに生きる研究者の見習いとして、今後も考え自分なりの意見を持っていけたらと思います。
最後になりましたが、青葉賞受賞と渡航支援に際し、日本RNA学会の皆様には大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。今回の学会参加の経験を活かし、今後より面白い研究を展開できるよう邁進して参ります。そして何より、サイエンスを楽しんでいけたらと思います。