京都大学・医学研究科・医化学分野 劉 國豪
2024年6月26日から28日にかけて、東京大学で開催された第25回日本RNA学会年会に参加した。さまざまなRNA分野の専門家の研究成果を知ることができ、自分自身の知識の研鑽にもつながった。
今回の年次大会では、転写、翻訳、RNA構造、ノンコーディングRNAの作用機構といった従来の主要研究分野に加え、ウイルス免疫におけるRNAの役割、RNA関連疾患や生理機能、核酸医薬としての可能性などに焦点が当てられた。
程久美子会長がまず、RNA学会の歴史を簡単に振り返った後、日程と会場を説明してくれた。この後、スイス・バーゼル大学のマリア・ホンデレ教授が、DEAD-box ATPase(DDXs)がRNA分子を相分離構造に誘導することで、細胞内でのRNAプロセシングを時間的・空間的に制御するメカニズムに関して詳しく紹介した。次に、フランスのSorbonne大学のZoher Gueroui教授は、細胞がバイオエンジニアリングされた凝縮体を用いてRNP輸送系を構築し、相分離を通じてRNA凝縮体を形成し、細胞内のRNAの局在と機能を操作するシステムについて説明した。
2019年に新型コロナウイルスが世界を席巻し、その感染拡大および重症化予防対策としてRNAワクチンが開発された。2023年のノーベル賞受賞者であるカタリン・カリコ博士(Katalin Karikó)は1990年代初頭からmRNA技術の研究に従事し、その後の数十年にわたってmRNAワクチンの開発に不可欠な基盤を築いてきた。カタリン・カリコ博士は研究初期の段階では、ハンガリー科学アカデミーの生物学研究センターで、2'-5'オリゴアデニル酸(オリゴアデニレート)の研究に取り組んだ。この研究はRNAを使った非常に初期のもので、他の多くの研究者がRNAは非常に不安定で研究が難しいと感じているときだった。その後、彼女はペンシルベニア州立大学医学部に行くことになった。当時、mRNAの研究に興味がある人はほとんどいなかったので、研究費の申請も非常に難しかった。ある時、図書館にあるプリンターを使いに行ったとき、彼女はドリュー・ワイズマン博士(Drew Weissman)に出会った。彼女自身はRNA分野の研究者で、ドリュー・ワイズマンはワクチンを研究する免疫学者なのだが、mRNAを使って新しいワクチンを開発できないか、という素晴らしいひらめきを得て、思わず会話がつながった。この考えは素晴らしかったが、実際のプロセスはまだ先が見えない道だった。「mRNAを樹状細胞に送達すると、樹状細胞は活性化され、炎症性サイトカインを大量に産生する」という問題を解決しないと、mRNAを潜在的な治療ツールとして使用することはできないのだ。アメリカに行った当初、彼女はテンプル大学のロバート・スハドルニク(Robert Suhadolnik)の研究室でポスドクとして2-3年働いていた。スハドルニクはヌクレオシド類似体の世界的に有名な科学者であり、彼の研究室でKarikóは、自然界のRNAがどのように修飾を受けるのかについて深い理解を得た。
カタリン博士の話を聞いて、一番印象に残ったのは、彼女が失敗を繰り返しながらも、挑戦することを諦めなかったということである。彼女が言ったように、失敗を深刻に受け止める必要はないのだ。科学者であれば、失敗し続けるものである。そして、どんなことであれ、自分が今していることを楽しまなければならない。Jobsが言ったように、誰も未来を予測することはできない、振り返ってみたら当初やったことの甲斐があったことがよくある。だから、自分の人生におけるすべての経験に不平を言わず、一貫性を保つこと、そうすれば物事がどんどん良くなっていく。カタリン博士の「She doesn’t know if she herself will make these breakthroughs or if someone else will. She does not know if she will live to see them. These questions don’t matter. The work, the doing, is all that matters.」という言葉にも感銘を受けた。
最後に、本学会参加支援を受けるにあたり、たくさんのRNA分野の研究者の講演を聴き、大変有意義であった。この度得た経験を活かし、より広く深い視点から研究活動を続けていきたい。