沖縄での研究生活

栁谷 朗子(沖縄科学技術大学院大学・細胞シグナルユニット)

沖縄で世界最高水準の研究をしよう

2017年4月より、沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下OIST)・細胞シグナルユニット(山本雅教授)で研究員として研究に従事している栁谷朗子と申します。今回は沖縄での研究室紹介をさせて頂ける機会を与えて頂き、大変嬉しく思います。長年にわたるカナダ・モントリオールのマギル大学から移動し、寒冷なカナダとは全く気候の異なる温暖な沖縄でマウスモデルを使用した転写後調節の研究を楽しんでいます。

OISTがある恩納(おんな)村は沖縄本島の中央部にあり、東シナ海と太平洋に挟まれたウエストのように島幅が一倍引き締まったところに位置します。近隣には高級リゾートホテルなどがあって観光客で賑わっており、ハワイのような雰囲気が漂っています。その一方、通勤中にオスプレイや戦闘機が上空に飛んでいるのをみて、沖縄の基地問題について思いを馳せる時もあります。沖縄での生活はやはり綺麗な海や自然と温暖な気候で、とても幸せな気分で生活できるところだと思います。まだ、沖縄の冬は経験していないですが、沖縄の人々の物腰の柔らかい受け答えと話し方に癒され、とても親しみを感じるようになりました。まだ5ヶ月ほどしか沖縄に住んでいないですが、沖縄が私の人生の一部分になりつつあります。


図1 細胞シグナルユニット 山本雅教授(写真中央)、研究員(脳神経学3名、代謝学1名、免疫学1名、発生学1名、生殖生物学1名、分子生物学1名、合計8名)、技術員5名、秘書1名、大学院生7名、合計22名。

沖縄といえば綺麗な海が有名で、観光のイメージが強く、沖縄で研究をするというのは意外に感じる方も多いと思います。私が初めてOISTについて知ったのは、マギル大学の同じ研究室で働いていたギリシャ人とポーランド人のポスドクからの情報でした。彼らがOISTでの脳神経科学のセミナーに参加後、OISTには素晴らしい研究者と研究施設があるという話を聞かせてくれたのが始まりでした。その後、OISTに訪問して実際に研究施設をみて、日本のみならず海外の一流大学にも負けない研究環境だと思いました。

OISTの設立は沖縄振興施策の一環であり、沖縄を拠点とする国際的に卓越した科学技術に関する教育研究の推進を図り、①沖縄の振興及び自立的発展、並びに②世界の科学技術の発展に寄与することを目的としています。OISTは世界トップクラスの英知を結集して世界最高水準の科学技術に関する研究及び教育を行う事を目指すと同時に、産学連携にも積極的です。OISTおよび沖縄においてイノベーションを育み、経済成長を加速させることを使命とした、技術開発イノベーションセンター、事業開発セクションや技術移転セクションが設立されています。企業との共同研究や研究成果の産業化に取り組むことにより、企業の集積を促し知的・産業クラスターの形成を目指しているようです。沖縄特有の植物や珊瑚礁、海洋生物などを利用した研究も行われており、沖縄振興に貢献する事が期待されています。


図2 OISTの斬新でモダンなデザインのセンター棟(2010年3月完成)と研究棟群。周囲の環境に配慮して、研究棟間は橋で接続されている。

また、OISTでは多くの高校生や大学生の見学や研修を受け入れており、沖縄の学生さんが内地に行かなくても世界最高水準の研究に身近に接することができるような環境を整えています。今後OISTでの研究で刺激をうけた若者が世界最高水準の研究に携わるようになることを望んでいます。

OISTの学生は5年一貫制の博士課程に在籍し、教育と研究は全て英語で行われる国際的な大学院です。教員と学生の半分以上は外国人であることが定められており、実際教員の6割以上、学生の8割以上は外国人で、本研究室でも半数以上の構成員がエジプト、インド、フランス、イギリス、ベラルーシ、ニュージーランド、マレーシアやイタリア人といった外国人であり、とても国際色豊かであります。大学院生は一人のみが日本人で、その他は外国人学生であり、実験指導やディスカッションは全て英語で行われます。


図3 東シナ海に面する細胞シグナルユニットのある第2研究棟。眼下に手付かずの自然の森と綺麗な海が広がっている。

OIST は2012年9月に最初の大学院生34人(日本人は5人)を受け入れ、今年OIST創立初めての博士号取得の学生さんがでるところです。また、今年は500人以上の入学希望者があったそうで、倍率は約14倍という狭き門になっているようです。大学院生の教育環境と学生生活のサポートはとても素晴らしく、国内外の他大学教授による外部審査や、海外の大学におけるインターンシップなど、学生に豊かな研究経験を与えています。学生はまず、初年度に3つの異なる研究室でローテーションを行い、博士号を取得する研究室を決定していく事になります。

本研究室ではマウスモデルを使用して、転写後調節の生理学的役割を解析するということから、医学部や薬学部出身の研究員と大学院生が多いです。本研究室からはまだ博士号を取得した学生はいないので、今後、毎年質の高い研究で期限内に大学院生が卒業できるように、私も大学院生の研究をサポートしていきたいと思います。

OISTには現在、神経科学、分子・細胞・発生生物学、数学・計算科学、環境・生態学、物理学・化学の五分野にわたる約52の研究ユニットが存在し、今後さらに20の研究ユニットを増設する予定です。また、OISTには工学部や理学部といった枠組みがないので、分野を超えた共同研究が効率的に行われています。このように欧米型の理系大学院が日本で成功するかどうか問われていると思います。


図4 天空の城を彷彿とさせる研究棟に囲まれた中庭。お昼時には昼食のために賑わう。他の研究棟で働く研究者との情報交換の場でもある。

OISTには現在、第1研究棟(2010年3月完成)、本研究室がある第2研究棟(2012年6月完成)、第3研究棟(2015年3月完成)の3つの研究棟があり、さらに第4研究棟の整備は遅くとも2019年3月までの間に完成する見込みで、OISTは現在進行形で拡大中です。OISTの共通機器施設はとても充実しており、例えば電子顕微鏡を使用したい時はイメージセクションの経験豊かな技術員がサポートしてくれますし、機器分析セクション(MS解析やFACS解析)、DNAシークエンシングセクションなども最新の機器が揃っています。また、特に動物施設は素晴らしく、とても効率的にマウスを使用した実験を行うことができます。

本研究室では、mRNAポリA鎖の脱アデニル化に重要な役割を担うCCR4-NOT複合体の脳神経、代謝、生殖、発生、免疫といった広範囲にわたった生理学的役割を、CCR4-NOT複合体の構成因子をノックアウトしたマウスモデルを用いて解析しています。今までにとても興味深い実験結果がでているので、今後、本研究室からCCR4-NOT複合体による生理学的な転写後調節の分子機構を解明した多くの論文が発表されると思います。

OISTが開校から5年ほどの間に、ここまで世界最高水準の研究が遂行できる設備と研究環境を整えることができたことは称賛に値すると思います。また一方、OISTの素晴らしい設備を利用して行った研究で、優れた研究結果を多く発表する時期になっていると思います。私も自分の研究に専念して前述のOIST創立の理念に貢献したいと思います。

最後に、OISTでは国内外の研究機関や大学、地域社会との連携を強化するために、 講堂や会議室などの施設を開放して、国際会議やワークショップなどを積極的に誘致しています。将来、日本RNA学会の年会を是非OISTで開催して欲しいと思います。

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